運命の人 | ナノ


私の知らない私



お菓子作りも進んで後は固めるだけ。
蘭はちょっと豪華にケーキを作っていたから焼くだけとなった。
結構、時間経っちゃったな?
工藤君はちゃんとお昼ご飯食べているだろうか。ある程度は作って温めるだけにしたから大丈夫だとは思うけど。





「休憩も兼ねてお茶にしましょうか。……あら、ミルクが切れたみたいね。蘭と園子ちゃん、悪いけど買って来てくれるかしら?」

『え?』



でも…ミルクなら、さっき冷蔵庫を見た時に…。
何かそう言わなければならない事情があるのだろうか?
それじゃあ私も一緒に…と手を上げようとしたら妃さんに止められた。
とても綺麗な笑みだけど有無を言わせない強さがあるな。



「名前ちゃんは私と後片付けを手伝ってくれる?」

『あ……はい』



貴方様の頼みなら私は何でもお聞きしますとも!何なりと申しつけ下さいませ、女王様!

それじゃあ行って来るねー!なんて私の心境を知らない二人は意気揚々と家を出て行きました。
残された私はキッチンへ行って洗い物をしながら妃さんに一言。




『ミルク…ありますよね?先程、冷蔵庫を拝見させていただいた時にはまだ余りがあった様に思いますが』

「…観察力は高いのね」



私の言動に不敵に笑った妃さんに私も微笑み返す。
…法廷で妃さんを敵に回した時の検察側の気持ちが分かった気がします。





「蘭達が帰って来る前に話しておきたいの。貴方のご家族の事についてよ」

『え……?』



どくん、と心臓が高鳴った。
まさか妃さんの口から家族の話が出るとは思っていなかったから、暫く思考が止まってしまう。



「…覚えてない、でしょうね。ショックによる逆向性健忘になっていたから」



血液が冷めていく感覚に捕らわれた。
上手く息が出来なくて、過呼吸に陥りそう。
ぎゅっと胸の辺りに手を置いて自分を平静に保とうとする。



「私の後輩が貴方の事故の弁護についたのよ。初めての裁判だったから色々と相談にのってて…貴方の存在を知った。私の事を覚えていない?」

『……覚えて、ないです』





妃さんに会ったのは今日が初めてで間違いない。
過去に会った事も無い。だって、私は……トリップしてきたんだから。

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