声に出した現実
まだまだ覚えた道が不安で同居人である工藤君に道案内を頼んで一緒に登校している。
…蘭と二人で学校に行かせなきゃいけないのに、私の馬鹿。
『はぁ…』
「何溜め息ついてんだよ?」
『うーん…年上として高校生の子達の恋を応援しなきゃなんないのに、私が邪魔してるなぁと』
「………まさかとは思うけど、まだ俺と蘭の事気にしてんのか?」
『私が気にする事なんて、それくらいしかありません』
そう言うと何故か工藤君は大きく溜め息をついた。え、溜め息をつくべきは私じゃなくって?
「俺が蘭を好きになるのは有り得ねぇって言ってんだろ。アイツはただの幼馴染み」
『…それ何回も本で言ってたよ』
アニメでもこれでもかってくらい。それが照れ隠しなのは分かってたし、蘭も誰があんな推理オタク!なんて言っていても満更じゃないのは分かっていた。
だから今の言葉も照れているだけだろう。もう蘭の事は意識してるだろうし好きになるのも近い筈!…本当は小学生くらいから好きだった筈なんだけど。
そんな二人を私が邪魔をする訳にはいかないのに…何をしているんだろう、私は。
「…迷って遅刻したくねーだろ」
『何とかなると思うよ?』
「どうせ同じ所から同じ場所に登校するんだから一緒で良いじゃねーか」
『………』
工藤君は女心が分かってないな。蘭は工藤君とずっと一緒にいたいと思ってるよ。
好きな人とはずっと一緒にいたいって思うものだもん。
…あぁ、私も青い春を過ごしたいな。今は冬真っ盛りだけど。
「名前ーーーーー!!」
『あれ?園子に蘭、おはよぉっ!?』
後ろから凄い勢いと形相で私の所までやって来た園子に腕を掴まれて引っ張られた。えぇっ!?何事ですか!?ちょ…待って腕が痛い痛い!園子様、離してぇっ!
あれ?引っ張られている私の隣に蘭がいた。蘭!一緒に走ってないで、このお方を止めて!
そんな私の祈りも通じず、蘭は苦笑を漏らすだけ。…蘭様ぁ!!
やって来たのはあっという間に辿り着いた学校内の余り人気のない所。
…またあんまり道見れなかった。
というか…何でこんな所に?
「アンタ、新一君と同棲してるってホント!?」
『え?』
……何でその事を園子が知ってるの?園子が知ってるって事は蘭も知っているって事で。
どうしよう、やっぱり好きな人が女と一緒に住んでるのは嫌だよね。
『蘭。私と工藤君は二人が考えている様な関係じゃないから』
「えっ?私?」
『工藤君と一緒に住んでるのは………そ、の』
十分、分かり切ってる筈だった。だって昨日だって聞かれた事だった。
家庭の事情って両親の転勤とか?みたいなそんな質問。その時は普通に答えられた。重い空気が嫌だったから当たり障りのない様にそんな感じ、と適当に答えて。
私の元の世界の家族は生きているけど、この世界の家族はもういない。
蘭と園子には…本当の事を言いたい。だけど、上手く口が動いてくれなくて。…口に出すのが怖かった。
『私の、家族……事故死してるの』
「え……」
声に出す事は出来たけど自分で思っていたより掠れた情けない声だった。
苦笑してから二人を見ると、悲しそうな…涙を堪える様な目で私を見ていて。
何で二人がそんな顔をするんだろう?
二人は優しいからきっと悪いと思って、私の事を考えて泣きそうになってるんだろうな。
そんな顔しないで。二人は何も悪くないし、笑ってた方が可愛いから。
『親戚も頼れる人がいなくて…そしたら私のお母さんと仲の良かった有希子さんが私の事を引き取ってくれたの。それで今は工藤家に住んでるんだ。勿論、蘭が思う様な間違いなんて絶対に無いから心配しないで?』
笑った私の両手を蘭と園子が片手ずつ握って来る。
温かいその手に何だか泣きそうになってしまいそうだ。
『ん?どうしたの?』
「ごめんね……私、」
「何かあったらすぐに言って?私、力になるから」
優しい二人に私はうん、と小さく頷いた。
これはこの世界の私の事。…本当の事は言えないの……ごめんね。
『それじゃあ、もうすぐ授業始まっちゃうだろうし行くね!』
「う、うん!またお昼、一緒に食べよう!」
「今日は私が迎えに行くから待ってなさいよ!」
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