カチューシャの女の子
ようやく昼休憩になったものの、私は疲労困憊しています。
嫌な予想が大当たりして毎時間の休憩中にクラスの子に囲まれ、別のクラスからも見に来る子達に囲まれたりと…心休まる時が無かった。
「名前?」
『あっ……らぁーーんーっ!!』
天使が来たっ!助けて!
人の波をかき分けて教室の扉の所にいる蘭の元へ駆け寄る。
涙目の私に蘭は、さっきまで私がいた席を見てから苦笑した。
「お昼ご飯一緒に食べようと思って誘いに来たの」
『食べる!お願いだから一緒に食べて』
「凄いもんね……紹介したい友達がいるんだ!お弁当持ってうちのクラスに行こう?」
『うん』
蘭が紹介したい子って、あの子だよね?園子よね?うわー、早く会いたい!
どこへ行くのだろうと此方を見ていた子達から逃げるように、弁当を引っ付かんで教室を出た。
蘭がいる教室に来ても…好奇の視線が止む事は無かった。寧ろ今日一番の話題であろう転校生がうちのクラスに来た!なんて感じで皆の目が痛い。
その中に工藤君の顔を見付けて小さく首を縦に振った。向こうも気付いてくれたのか同じ様に首を振ってくれる。
クラスの男の子だろうか、男の子の輪の中にいる工藤君は楽しそうに笑っていた。昼ご飯は蘭と一緒に食べないのか。
蘭に案内されて席に着くと待っていたのか、カチューシャをつけた茶髪の女の子。鈴木財閥のご令嬢である鈴木園子がいた。
「その子が蘭が言ってた転校生?」
『話題の渦中らしい名字名前です。仲良くして?』
「私は鈴木園子よ!どう呼んでくれても良いから」
園子から差し出された手を握る。蘭と園子が並ぶと綺麗所が集まってて切なくなってくるなぁ。
ふぅ…と小さく溜息をついてからお弁当を開いた。
「それにしてもさっき凄かったね。毎時間あんな感じだったの?」
『あぁ……そうだね。別のクラスからも来てたみたいだから同じ質問されたりとか…取り敢えず気の休まる時が無かった。だから蘭が来てくれて良かったよ!もう天使に見えたもん』
「えぇ!?」
救世主が現れたと思いました。私をあの地獄から連れ去ってくれたのは、王子様でも何でもなく可愛らしい天使だったよ。
「噂では可愛いって聞いてたから、調子にのってる高飛車なとっつきにくい子なのかなーって思ってたけど、思ったよりサバサバしてるのね」
『はい?可愛いってのは蘭とか園子みたいな子を言うんでしょ。やったね、私ハーレム!』
「……一瞬でアンタの事、好きになったわ」
漫画見てた時は女の子のキャラクターと友達になりたいなって思ってたし、今の状況は楽しい。さっきまでの質問攻めとは違う楽しさにルンルンしながら卵焼きを頬張った。
それからお弁当を食べながらたくさん話した。漫画では絶対に知り得なかった二人の事、私の事も色々と喋った。
蘭は勿論優しくて、園子は明るくて笑いが止まらない。
何だ、私結構高校生に溶け込めてるじゃん。
楽しい時間は過ぎて戻りたくない教室に戻らなければならない。この質問攻めの日々も明日には無くなっている事を祈りながら、蘭達に手を振った。
「名前!」
『え?』
私の名前を呼んだのはあの子。
何か用があるのかな?というか……21歳として接しなくても良いとは言いましたけども、名前呼び捨てか。うん、勝平さんボイスだから良しとしましょう。
彼の声で名前呼ばれるなんて滅多に無いだろうしね。
『どうしたの?』
「今日、HRが終わったら教室で待ってろよ」
『え、何で?』
「……蘭と話すのに夢中になってたのに、道覚えてんのか?」
『…あ』
…そうだった。蘭の登場に嬉しくて話すのに夢中になってて周りの道確かめてなかった。一人で帰れるとも思えないし…スーパーにも寄りたいんだよね。
『…お願いします』
「おう。じゃあ、またな」
『うん、また後で』
ついこの間まで敬語を使われていたからなのか少しだけ違和感を感じた。順応性が高いというか…本当に私が実年齢に見られてないだけなのか。
まぁ、いっか。いつまでも気を使わせちゃうのも嫌だし。
私も高校一年生だと思う様にしなきゃだから。
今日の夕飯は何にしようと、そんな事を考えながら自分のクラスに戻った。
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