ある名探偵の迷変装
きっと毛利さんが呼んだんだろう、目暮警部や高木刑事を入れた警察が体育館を閉鎖した。
体育館内にいた人はこの事件が解決するまで外に出れないんだろう。
鑑識の人がパシャパシャとカメラで亡くなってしまった人を映している。
「亡くなったのは蒲田耕平さん27歳…米花総合病院勤務の医師…。劇を見ている最中に倒れられたとのことですが…」
「は、はい…何か急に苦しみ出して…」
蒲田さんの友人らしき女性と目暮警部が話している。
遺体の傍に落ちている紙コップを見て、その飲み物を飲んで倒れたんじゃないかと推理していた。
どれくらいの時間か目暮警部が女の人に質問しているが、分からないみたい。
…んー……悲鳴が聞こえたのは確か。
「午後2時40分ぐらいだと思いますよ」
「名前君!?」
「悲鳴が聞こえたのが劇の見せ場にもなる中盤のシーンだったので、時間的にそれくらいかと。そうですよね?先生」
新出先生に同意を求めるが先生は無言でノーリアクション。
先生…?どうしたんだろう…何か、突然先生が先生じゃなくなったみたいな…そんな感じがする。
私の思い違いだと思うんだけど。
「そうか!この学園祭、名前さんの高校だったんですね!」
「はい、ちょうど此処の体育館で劇をしていて…」
「警部殿!」
「………またお前か」
目暮警部が近付いてきた毛利さんを苦笑しながら見つめる。
…ああぁ、ごめんなさい毛利さんが事件を呼んだんじゃなくて事件がコナン君とついて回っているんです。
もうそれはコナン君が工藤君に戻るまで、この事件ラッシュは続くと思うな。
「青酸カリや…」
検視官の人が調べていると、それを覗き込むようにして帽子を被った少年が現れた。
関西弁でこの声で思い当たるのは一人しかいない。
だけど色黒じゃないし…うーん?
青酸カリで死んだことを流暢に話すのは見た目の年齢からは想像できない。
余りにも事件について詳しいからか毛利さんから疑惑の目が向けられた彼は、蒲田さんの近くにいなかったことを証明する人にコナン君を指差した。
……確定かな。
「そうなの?」
「うん、いたみたいだよ」
「なんやもうオレのこと忘れてしもたんか?久し振りに帰って来たっちゅうのにつれないなー…オレや、オレ!工藤新一や!!」
「…………はい?」
…どう考えても工藤君じゃないでしょう。
被っていた帽子を取った彼の顔は色黒じゃない所を除けば、確実に平次だった。
だって工藤君はそんなに眉毛太くないもん!
「眼鏡のボウズに電話もろて、姉ちゃんの劇観に来たったんや!な!そやろ?」
肩を持たれて笑顔の平次だけど……うん、色々と予想はついたけどさ。
それにしてももうちょっと変装頑張れなかったのかな…せめて関西弁は直したり。
なんて平次なりにコナン君のことを思ってしたことだろうから私がとやかく言えることじゃない。
でも…少しだけ無言でも良いかな。
「何してんの?平次…」
「服部君?」
和葉に蘭も加わって、いよいよピンチ。
…平次、さすがにこれはフォロー出来ないよごめんね。
「顔にパウダーつけて髪型変えて…此処で歌舞伎でもやんの?」
「わ、ほんと。それに工藤って…」
「ちゃ、ちゃうわいよー見てみ!オレは平次やのーて工藤…」
「だから何の冗談だって言ってんだよ!?」
毛利さんの怒声が体育館内に響いた。
…そうなるよね。
諦めたのかメイクを落として髪型も戻した平次は冗談だと言って笑った。
やっぱりそっちの方が良いよ、平次。
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