黒の羽根、舞い降りる騎士
<只今より二年B組の「シャッフルロマンス」を上映いたします。ごゆっくりご鑑賞ください>
アナウンスがかかり、ブザーが鳴った。
幕が上がり、本番。
「ああ…全知全能の神ゼウスよ!!どうして貴方は私にこんな仕打ちをなさるのです!?それとも望みもしないこの呪われた婚姻に身を委ねよと申されるのですか!?」
思ったよりも第一声がスッと口から出た。
セットの城でスタンバイしてた時はあんなに手が震えていたのに、今は大丈夫。
……うん、思ったよりもいけるかもしれない。
周りも見えているし、いける。
劇も中盤を迎えて、いよいよ黒衣の騎士登場シーンに差し掛かる。
…ここから園子曰くロミジュリ以上のラブロマンスが始まります。
とにかく間違って新出先生の唇を奪ってしまわないように気を付けなきゃ。
そんな心配をしながらも劇は進んでいって、帝国軍の皆が馬車を襲撃して私を攫う。
「きゃあああぁぁ!」
「あんたら名前に何やってんねん!変なとこ触ったらタダじゃすまさへんで!!」
!?和葉さんんん!!?
良く通る素敵な声だからなのか舞台上まで和葉の声が聞こえてきた。
……うん、変な所っていうかギリギリの所触られてるけどまあそれは演技だからしょうがないって割り切ってるから良いとしても、それより和葉は恥ずかしくないのかな。
皆の大注目を浴びているけれど。
その時、頭上からカラスの羽根が落ちてきた。
「カラスの羽根…ま、まさか!?」
ズバッと剣を振りながら登場したのは新出先生扮する黒衣の騎士。
漫画やアニメでありそうな登場の仕方に和葉もときめいたらしく、カッコエー!なんて黄色い声が聞こえてきた。
前の方の席にいる女の子達も顔を赤らめている人が多い。
「くそっ引け!引け!!」
帝国軍が退いて、舞台上には私と黒衣の騎士だけ。
私はセリフを言う為に少しだけ新出先生に近付く。
「一度ならず二度までも…私をお助けになる貴方はいったい誰なのです?ああ…黒衣を纏った名も無き騎士殿。私の願いを叶えていただけるのなら、どう、か…?」
ふわり、と突然抱き締められたことによって私のセリフはストップしてしまう。
ど……どういうこと?
こんな動き台本には無かったのに…。
「新出先生?台本と違いますよ…?」
新出先生が独断でこんなことする筈ないと思うし、もしかして園子?
そう思って舞台袖を見ると園子が「いいからそのまま続けて!」と書かれたカンペを頭上に掲げていた。
その後ろには蘭も含めた女の子が数人、ニヤニヤしながらこっちを見てるし。
……ったく、もう。
他の子だったら先生に抱き締められた時点でぶっ倒れっちゃってるわよ、きっと。
何とか平静を装って続きのセリフを口に出す。
「貴方はもしやスペイド…昔、我が父に眉間を斬られ、庭から追い出された貴方がトランプ王国の王子だったとは…。ああ、幼き日のあの約束をまだお忘れでなければ…どうか私の唇にその証を」
「キャアアアア!!!!」
2人の唇が合おうとするその瞬間、体育館内に悲鳴が木霊した。
な、何!?
ま…まさかまたコナン君の主人公補正で事件が、
「……え?」
悲鳴が聞こえた時、あっという間に私の前に出た先生が守るように背中に隠した。
………先生?
胸の中を何かがザワついた瞬間だった。
prev / next