運命の人 | ナノ


ラヴラヴ脚本



やってしまったと自分の失態に落ち込んだ日から3週間が経とうとしている。
何か大きな事件が起きて、内容が変わらないかなとかそんな期待をしていたけれど変わる訳もなく。
仕事の早い園子が書き上げた台本をパラパラと捲った。



「それにしたって……」


何度読んでも恥ずかしい台詞だな、これ。
歯の浮いてしまう様な台詞が散りばめられているこの劇は、言った通り園子が全ての台詞を考えた。
さすがラッブラブでキュンキュンするやつ考えてやるわ!なんて豪語してただけある。
……ラッヴラヴですよ。ラブじゃなくてラヴですよ。



「…全知全能の神ゼウス、ねぇ」


全編通してこんな台詞ばっかりだから恥ずかしさは半減かもしれない。
でも悲しいことに恐れ多くも私がヒロインだから、皆よりはそういう台詞が多いけど。



「なぁに難しい顔して台本見てんのよ?」

「んー…凄いの考えたねー」

「でっしょー!ラストにはキスシーンもあるわよっ!!」

「……はいっ!?」


キスシーン!?聞いてないよ何それ!?
捲っていくと驚くことに本当にキスシーンがあった。


「どういうことぉ!?」

「キスシーンはフリよフリ!取り敢えず騎士役の男子と一回通してみて?」

「……はぁ…ハイハイ」


騎士役の男子と台本を持ちながらだけど演じてみる。
まったく!身長が高いから見上げる形になっちゃうから首が痛い。


「一度ならず二度までも…私をお助けになる貴方は一体誰なのです?黒衣を纏った名も無き騎士殿…私の願いを叶えていただけるのなら、どうかその漆黒の仮面をお取りになって素顔を私に…」

「………」

「…………ん?あ、あれ?」


返って来る筈の台詞は来ず、何故か顔を赤くしたままの騎士役の彼。
微動だにしない彼の顔の前で手を振る。


「…もしもーし?瀬田君?…おーい」

「あーらら、見惚れちゃってるよ」

「?」

「…予想してはいたけどホントになるとは。しゃーない、騎士役は蘭に頼むか」

「蘭が騎士役やるの?」

「名前が姫だったら誰がやっても男女に見えるでしょ」

「…え、それ暗に私の身長が低いこと言ってる?」


園子の馬鹿ぁ!!
良いよ良いよ、私が身長低いことなんて自覚してるもん……別に悲しくなんか…うぅ、悲しい。



「まぁまぁ、そんな顔しないの。…あ、そだ。保健室で採寸してもらって来て。名前に似合う可愛いドレス仕立てるから」

「ドレス着れるの!?」


ドレス、か…うわぁ、夢みたい!
元の世界では着れないとも思ったドレスを着ることが出来るなんて。
女の子なら誰でも夢を見るドレスが着れることに、単純にもテンションが上がった私は保健室へ向かった。

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