大ピンチ回避
な……泣きたいです、泣いてしまいたいです。
私の前にいるコナン君から半ば強制的な取り調べを決行されている。
「……んで?一体、誰なんだよ」
「だから…優作さんだって」
「んな訳ねぇだろ、嘘言ってることなんてバレバレだ」
「………す、好きなことには変わりないもん」
嘘は…ついちゃったけど。
あの場面で私が好きなのは工藤君です。なんて言う方が無理でしょうよ。
隣に好きな人がいるのに貴方が私の好きな人、なんて。
「で?」
まだ知りたいのか君は!?
向こうの世界でこんな体験を1度したことがある。
好きな人に直接、お前の好きな奴って誰?って聞かれたことがあって…その時は若さゆえか、それともその場の勢いだったのか。
…叫び気味な告白は見事、実を結んだ。
自分でも驚きだったけど、その彼は私のことが好きだったらしい。
そんな漫画みたいなことがあったけど、この恋は違う。
言ったが最後、私は此処にいられなくなるんだから。
でも…何で工藤君は私の好きな人が知りたいんだろう?
「ねぇ?」
「あんだよ?」
「んーっとね、工藤君は何でそんなに私の好きな人が気になるのかなぁって」
「…は?」
いや、君が驚くことじゃないでしょう。
というかですね、何で頬を赤くしてるの?
「………それ、は」
「それは?」
「…………っそれは、だな。……オメーが」
首を傾げていると家のインターホンが鳴った。
「あ、私出てくるね!」
走って玄関まで行ってしまった名前を見てから、コナンは机に突っ伏した。
「……何やってんだ…オレ」
らしくないと項垂れるコナンの耳に、名前の笑い声が聞こえてくる。
だが笑い声は名前だけで相手の声は聞こえない。
少し後にリビングにやってきたのは名前と灰原だった。
「今日、博士が帰ってくるの遅いみたいだから家でご飯食べるってさ」
「…………」
「そういうことだから」
そう言った灰原は当然の様にいつも名前が座る席の隣の椅子に腰を下ろした。
少しだけ眉間に皺を寄せて灰原を睨むコナンの顔は険しい。
「あ、そういえばさっき何だった?何か言おうとしてたみたいだけど…」
「あ!?あー…別に何もねーよ」
「…そう?じゃあ私、夕御飯の準備してくるよ。哀ちゃんも寛いでてね!」
「ええ」
キッチンへ行って夕食の支度をする。
あっちではコナン君と哀ちゃんが何かを話しているけれど、声が小さすぎて聞こえない。
んー…何を言おうとしてたんだろう?
考えたって私がコナン君の思考が読める訳でもなければ、後からもう一度聞いたってコナン君が教えてくれる筈もない。
その考えに至って考えるのを止めた私はご飯作りに専念した。
……それにしても、哀ちゃんが来てくれたお陰で私のピンチは免れたかな…?
本当に良かった、なんて思い大きく息を吐いた。
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