運命の人 | ナノ


期待してしまう気持ち



「!?」



もうそろそろ帰って来るとメールを受けて、温め直していたシチューを掻き混ぜていたおたまが床に落ちる。


「あ、あああっ哀ちゃんん!?その目は一体…!?」

「…何でもないわ」


何でもなくないでしょう!?
赤くなって腫れぼったくなっている目は明らかに泣いた後の目。
よくよく見てみると涙の痕も少しだけあったから取り敢えず水で顔を洗って来る様に哀ちゃんに言う。
素直に頷いて洗面所へ行った哀ちゃんを見届けてから、氷水にタオルをいれて冷やす。
バタバタとしているとコナン君が呆れた顔で私を見ていた。


「慌て過ぎ、少し落ち着け。鍋、吹き零れそうだぜ?」

「ひゃあ!?わわっ、あぶ!!」


慌てて火を止めて、ふうと息をついた。
よ、良かった…せっかく、特売のお肉であったかいシチュー作ったっていうのに台無しにする所だった。
落としてしまったおたまを洗ってもう一度かき混ぜ始める。
すると顔を洗った哀ちゃんが戻ってきたから、氷水に浸けたタオルを絞って哀ちゃんに渡した。


「哀ちゃんが目冷やしてからご飯食べよっか。今日はシチューなんだよ!」


くるくるとおたまでシチューを混ぜながら言う。
哀ちゃんも目を冷やしながらだけど笑ってくれたから私も笑い返した。






ご飯も食べ終わって、いつまでも長居する訳に行かない私とコナン君は工藤邸に帰ることになった。
静岡県からノンストップで走って帰ってきた博士は終始眠そうで欠伸をしている。


「目、腫れない様に少しでも冷やしてね?」

「…分かったわ」

「博士も今日はお疲れだから早く寝なきゃ駄目だからね。インターネットやるなんて以ての外だから!」

「う、うむ…」

「それじゃあ、おやすみなさい」


手を振って隣の工藤邸に帰る私達をコナン君と博士が見送ってくれた。






随分と遅い時間になっちゃったけどコナン君にお風呂入らせたり、明日の準備とかしたりしているとあっという間に時計の短針が天辺から右へいってしまった。
ソファに座ってクッションを抱き締めている私の瞼はとても重い。
…コナン君がお風呂から出てくるまで頑張らないと。
でも…、

私が睡魔と闘っているとコナン君がお風呂から出て来たのか、良い匂いをさせながら近くにやってきた。
あぁ…良い匂い、同じシャンプーを使ってる筈なのに何でこんなに違う匂いに感じるんだろう?



「風呂、あいたぜ」

「……んー」

「…ねみーのか?」

「んん…だいじょぶだよぉ」

「…大丈夫じゃなさそうだな」


呆れているコナン君が私の隣に腰を下ろす。
やっぱり…落ち着くな、コナン君と一緒だと…。
うつらうつらと頭を揺らしながら夢の国への船を漕いでいる私を覚醒させる言葉が聞こえた。



「……あのさ、…オメー…この間のキスのこと」

「はあぁいっ!?」

「うわっ!?」


何か一気に目が覚めた!?
kiss?キッス!?キス言いました、この子!!?
突然、覚醒した私にビックリしたのかコナン君の目が大きく見開いている。


「だ、だから…この間のアクアクリスタルでの、キ、キスのことなんだけどよ…オメーどう思って」

「なん、何とも思ってないですコナン君の貴重なファーストキスを無理やり奪っちゃってごめんなさい本当は蘭とさせてあげたかったんだけど、あのその……っお風呂入って来ますーーーっ!!」



脱兎の如く、お風呂場まで逃げて来た私はへたりと床に崩れた。
………やっちゃった、やっちまったよ私。
いつもの私なんて欠片もないくらいに動揺した姿。
絶対、顔も赤くなってたと思う。だって今だって顔が熱いもの。
あれじゃあ…工藤君のことが好きだって言ってる様なものじゃない。


「……どうしようぅ…」





名前が逃げ出して行ったリビングでコナンは茫然とした後、顔をほんのりと赤くして口元を手で覆った。


「……あれが、何とも思ってねー顔かよ…」


口角が上がってしまう。
ほんの一瞬、生まれた期待。
もし…この期待が本当なら、オレと同じ気持ちを名前も抱いているとしたら。

それは何て、素敵なことなんだろう。




物語は進み、二人の距離は少しずつだが縮んでいく。
二人の想いはいつ結ばれるのか…。

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