運命の人 | ナノ


無くしたくない大切な



哀ちゃんとのショッピングも無事に終わり、明日は転校の日。


「明日だねー。コナン君がいるから心配しなくても大丈夫だと思うけど…気を付けてね。哀ちゃん可愛いんだから帰り道とか…」

「何言ってるの。…名前、明日…携帯の電源落としておいて」

「え?何で?」

「何でも」


な、何か悪巧みを考えている!?
哀ちゃんに限ってそんなことは…ない筈。


「彼には私が組織から逃げて来たことを話しておくわ」

「うん、分かった」


……そ、そういえばコナン君と暫く連絡取ってないな。
キスしちゃったから気まずいっていうか…だって、ね、顔に表さずにコナン君と話せる自信が無いんだもん。というか無理。
どうしちゃったんだろうなぁ…私ってば。

下手に連絡が来ない様に携帯の方をあんまり電源入れておいてなかったから別に大丈夫だけど。
…明日、大丈夫かな。





少年探偵団に寄せられた一つの依頼。
そこからまさか黒ずくめの男達に近付くとは思わなかった。
必死で事件を解いて…黒ずくめの男達の仲間を追いつめたと思った。
これでこの小さい体とおさらば出来ると思ったのに……何でオレは泣きじゃくってる女の子のお守りして、家まで送らなきゃなんねーんだよ。

コナンは横でしゃくりあげている茶髪の女の子を見て、溜め息をついた。

……名前は相変わらずオレの連絡無視してやがるし。
オレ、何かしたか!?
そりゃあ…キ、ス…は、したけどよ…あれは酸素を渡す為だったし。
アイツならそれくらい気にしないんじゃねーかって思うけど…あーくそっ、ぜんっぜん分かんねー。
…うし、直接行くしかねーな。


「じゃあな!後は一人で帰れるよな?」


一刻も早く家に行きたかったオレは隣の灰原にそう言って離れようとする。
そんなオレの足を止めるには十分な声色で発せられたのは、さっきまで泣いていたとは思えない灰原の声。


「APTX4869…」

「え?」

「これ、何だか分かる?貴方が飲まされた薬の名称よ」


くす、り?
何言ってんだ…コイツ。


「な、何言ってんだよ?オレはそんな変な薬なんて…」

「あら、薬品名は間違ってない筈よ。組織に命じられて私が作った薬だもの」


ドクンと心臓が跳ね上がった。
…どういうことだ…組織、って。


「貴方と一緒よ…私も飲んだのよ。細胞の自己破壊プログラムの偶発的な作用で、神経組織を除いた骨格・筋肉・内臓・体毛…それら全ての細胞が幼児期の頃まで後退化する、神秘的な毒薬をね」

「は、灰原…お前……まさか…」

「灰原じゃないわ…シェリー…これが私のコードネームよ。どう…?驚いた?工藤新一君?」


不敵に笑った女の笑みに小学生の面影なんて一つも無かった。
じゃあ本当にコイツが…あの黒ずくめの男達の仲間…。


「驚いてる暇なんてないわよ、のろまな探偵さん?」

「何!?」

「言ったでしょ?今、私が住んでるのは米花町2丁目22番地。…そう、貴方の本当の家の隣…何処だか分かるわよね?」


すぐに阿笠博士の家だと分かって携帯を取り出して博士の家に電話する。
しかし…ツーツーと無機質な音が繰り返されるだけで繋がる気配は無い。


「おい、博士!?おい!?」

「無駄よ…何度かけても話し中。受話器が外れたまま、彼は取ることが出来ないのよ。もうこの世には、いないんだもの…」

「て、てめぇ…っ!」


博士の家まで走ろうとすると灰原がまた言葉を発する。


「あぁ、それと……名字名前だったかしら?」

「な、に…」


心臓が止まったかと思った。
何でコイツの口から名前の名前が…。
息が出来なくなりそうになる…まさか、まさか。



「異世界からトリップして来たみたいね。面白い素材だから組織が嬉しそうに身柄を拘束してアジトへ連れて行ったわ。彼女、今頃…どうなってるかしら?」

「てめぇっっ!!」


体が熱い…怒りで体が溶けちまいそうだ。
灰原の胸倉を掴む手が震える。
女だからとかそんなん考えてる暇なんか無かった…名前の身に何かあったら。
…携帯!慌てて携帯を出して名前に電話をかけるが博士同様、アイツが出る気配はない。


「…連れて行かれた彼女より今は目先の彼の心配をしたらどう?」

「……くそっ!」


灰原の服から手を離して走り出そうとする俺に灰原が言葉を投げかける。



「……貴方にとって彼女は何なの」

「…っ、ぜってーに無くしたくない大切な奴だ!!…テメーも来い!」



頭の片隅にあった冷静な部分が黒ずくめの男達に関する手掛かりを逃がすまいと、灰原の手を引っ張っていた。
くっそ…!どうして…っ、名前……博士!!





「…………」


ポカーンと口を開けざるをえない。
…どういうことだ?これ。


「いやースマンスマン!!最近、パソコン通信に凝っておってのー、電話回線が塞がっておったんじゃ!」


目を点にするオレは我に返って、名前の名前を出す。


「…っ博士!名前が黒ずくめの男達に…!!」



「こんばんはー。あのね、お肉が特売だったからたくさん買って来ちゃった!!あ、哀ちゃんお帰り!」

「ただいま」


平然とスーパーの袋を両手に提げて博士の家に入ってきた名前に驚く。
それに普通に「哀ちゃん、お帰り!」とか言ってんだけどどういうことだよ…聞いてねぇっつーか……あのガキ、嵌めやがったな。
苛々とか安心したこととか、ちゃんと届く距離にいる名前に色んなキャパがオーバーした。


「おい」
「え、あっ……コナ…いだだだだ!!いひゃいいひゃい!!?ひょっと、ほっへたがちぎへるっ!!」


屈んで来た名前の頬を思いっきり抓る。
痛そうに涙浮かべようがオレは見て見ぬ振り。


「……なんっなんだよこれは!あぁ!?」

「す、すみまひぇん…うぅ…痛かった…」

「バーロ!オレがどれだけ心配したか分かってんのか!?灰原がオメーが黒ずくめの男達に攫われたって言ってきやがったから…」

「え?そんなこと言ったの?」

「ええ、面白かったわ。彼の動揺した表情」

「……」

「ちょちょちょちょっ!?コナン様っ無言で時計型麻酔銃向けないで!!」




オレをからかって笑いやがったこの女…何なんだ!?
黒ずくめの女だって言うし…ぐちゃぐちゃになりそうだったが、灰原の状況を聞いて理解は出来た。
そして…薬のデータが手に入るかもしれないこと。
善は急げ、一刻も早く元の体に戻りたいオレは灰原から聞いた情報で南洋大学教授のヒロタマサミさんの家に行くことになった。
だけど……ヒロタマサミ…聞いた覚えがある様な気がする。でも…どこで聞いたっけ?


「!?」


フッと頭をよぎったのは名前の悲しそうな顔。
…名前に関係する人なのか?
あぁー…駄目だ、思い出せねぇ。



「コナン君?」

「え?」

「蘭に何か言われたの?」


受話器を置いた後に何も言わなくなったオレを不審に思ったのか、心配そうに名前が屈んで覗き込んで来た。


「何にも言われてねーよ。それより博士、早く行こうぜ」

「静岡だよね?それじゃあ私、夕飯作って待ってるから」

「へ?オメー、行かねーのか?」


…てっきり名前も着いて来るものだと思ってたオレは心の中だけで落胆する。

キスのこと…気にしてるとかねぇよな?
いやでも、今の様子を見ると普段通りな気もするし……。
あのキス?全然気にしてないからコナン君も気にしないで!
小学生とのキスなんてキスの内に入らないから!!
………とか言われたらオレ泣くかもしれねぇ。
泣きはしねーけど、暫く口聞けなくなるんじゃねーかってくらいは落ち込む。
それを名前は本気で言って来そうだから怖いんだよな。



そんなことを考えてしまったオレは落ち込みながら博士と灰原と車に乗り込んだ。

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