運命の人 | ナノ


名前決定会議



工藤邸にいてもらっても良かったんだけど、それじゃあ物語が大きく変わってしまうということで哀ちゃんを博士の家に連れて行って説明した。
優しい阿笠博士は喜んで哀ちゃんを自分の家で預かると言ってくれる。
こんなに優しい人だから、哀ちゃんの心も少しずつ溶けていくんだろうな。

微笑ましい光景を見ながら慣れた手つきでコーヒーを淹れる。



「そうじゃ!君も新一と同じ様に小学校に通わんといかんな!その為に用意せにゃならん物がたくさん…おぉ、その前に名前じゃな」


孫が出来たみたいに感じるのか浮かれているのがありありと見える博士。
今すぐにでもステップを踏みそうな博士を見て哀ちゃんも言葉が出ないみたい。



「……あの人、いつもああなの?」

「うーん…いつもじゃないけど、孫が出来たみたいで嬉しいんじゃないかな?」

「…可笑しな人ね」


そう言う哀ちゃんだったけど嬉しいんだと思う。
本当に嫌だったらきっと全力で逃げてると思うから。



「名前のぉ……」


皆でソファに座ってさっき淹れたコーヒーを飲みながら哀ちゃんの名前を考える。
私は哀ちゃんの名前が“灰原哀”になるってことを知っているから余り口出しはしていない。
ただ二人の名前決定会議を聞いているだけ。


「…工藤君はどういう名前にしたの?」

「新一君か?江戸川コナンじゃ」

「……彼のセンスを疑うわね」


まぁ、慌てていたとしても江戸川コナンなんて名前…普通はつけないだろうな。
日本人なのか外国人なのかも分からない名前だもん。
でもホームズ好きな工藤君ならではの素敵な名前だと思う。



「じゃあコナン君と同じ様に名探偵の名前とかどう?女探偵の名前をもじったりとか」

「それは良い!!女探偵といえば…V・I・ウォーショースキーのIはどうじゃ?」

「アイちゃんかぁ…可愛い!」

「…そうね、コーデリア・グレイなんてどうかしら?」

「それじゃったら、灰原愛なんて可愛いんじゃないか?」


白紙の紙に博士がペンを走らせて名前を書く。
私の知っている“哀”じゃない“愛”の字を。

私は哀の漢字だって知っているから何か違和感を感じるけど愛っていう字も可愛らしくて素敵じゃないかっ!!


「この名前良いねっ!志保ちゃん、これでいこ「愛じゃなくて哀で」」


静かに告げられた言葉に私と博士は固まる。
…有無を言わさない感じがとっても怖い。
無言で博士が書いた愛の字の横に哀と書いた哀ちゃんを見て、博士と顔を見合わせる。

……哀ちゃんの名前だし、本人がこうしたいと言っているんだからそうしよう。と言ったら目に見えるくらいに博士が肩を落としたのが分かった。



「哀ちゃんはいつから小学校に通えそう?」

「そうじゃなぁ…早くても明後日には行ける様になると思うぞ。名前君、すまんが明日哀君と一緒に必要な服や用具を買って来てもらえんか?お金はこれで。ワシも手続きが済んだら迎えに行くから」

「うん、良いよ」


ポンッと結構な大金を出した博士に感心する。
小学生か…ランドセルは必須、筆箱とかシャーペン…あ、小学生は鉛筆かな?それもいるし、あとは哀ちゃんの女の子用の服とか下着とか……有希子さんと工藤君と行ったショッピングを思い出す。
………凄かった、うん、その一言に限る。


明日の為にコーヒーを勢い良く飲み込んで私は工藤邸に帰った。

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