運命の人 | ナノ


あの人に誓う約束



ミルクを温めながらさっきの哀ちゃんの言葉を思い出す。

おね…ちゃ……


……あの子にあんな顔を、あんな言葉を言わせてしまったのは私。
私の力が及ばなくて、明美さんを助けられなかった私の未熟さが出した未来。
いつか来ると覚悟はしていたけど…こんなに心が痛いなんて。
…分かってる、私のこの悲しみなんてあの子に比べたら軽い物だ。
いや、比べるのさえおこがましい。
大好きなお姉ちゃんと……もう会えないのだから。

ぽろりと涙が零れた。

…っ、馬鹿、泣くな!
私が悲しんでどうする。
泣いている暇があるなら、あの子の為に出来ることを考えなさい、私!
固く決意をして気持ちを引き締める。




ぐい、と涙を袖で拭って十分に温まったミルクをカップにいれて自室へ向かう。
ノックをして扉を開けると布団を口元まで被った哀ちゃんがいて…正直、悶え死ぬと思いました。
……可愛いよ、哀ちゃん!!
哀ちゃんが私の顔を訝しむ様に睨んで来ているけれど気にしないでおこう。



「ホットミルク持って来たから飲もう。起きれる?」

「……ええ」


小学生らしからぬ落ち着いた声音で一言だけ言った哀ちゃんにカップを渡す。
自分の分のカップを持って、ベッド横に椅子を持って来て座った。
……さて、何から話せばいいのだろうか。
話すことが山ほどありすぎて頭がこんがらがってきた。

取り敢えず一つだけ決めているのは哀ちゃんに自分のことを包み隠さず言う。
じゃなきゃ、この子はずっと警戒したままで心を開かないと思うから。

ふーふーと可愛くミルクを自分の息で冷ましている可愛い哀ちゃんを横目に、閉じたままだった口を開いた。



「まず自己紹介からしよっか!私は名字名前、貴女の名前は?」

「………」


自分の名前を言いたくないのか哀ちゃんは口を塞いだまま。
飲もうとしていたミルクからも口を離してしまった。



「……んー…それじゃあ、私のことは名前で呼んでくれて構わないから。貴女のことは…志保ちゃんって呼べばいいかな?」

「!?」


疑惑の目が一層、強くなりました。
すぐにでも出て行ってしまいそうな哀ちゃんを慌てて引き止める。
熱々のミルクを溢さなかっただけ良かった。
哀ちゃんが火傷なんてしたら明美さんに申し訳がたたない。


「これから私が話すことを信じるか信じないかは志保ちゃんの自由。でも一つだけ覚えておいて?私は貴女の味方だから。……今度は、貴女を守る」

「……」



何度目か分からない自分のことを話す。
トリップしてきたこと、自分の今の状況、…明美さんを助けようとしたあの日のこと。
隠さずに私が話すのを哀ちゃんは口を挟まずに聞いてくれた。
それだけで嬉しいのに、次に哀ちゃんが言ってくれた言葉に私は涙を流してしまう。



「……ありがとう。お姉ちゃんのこと…助けようとしてくれて」

「…っ!」


違う…違うよ、哀ちゃん。
私は貴女に御礼を言われることなんてしてない。
寧ろ殴られて罵られるくらい当たり前なのに……運命を知っていたのならどうして、お姉ちゃんを助けてくれなかったのって。

泣いちゃいけないのに涙はとめどなく溢れてくる。



「ごめんねっ…」

「…良いのよ、………貴女を身をていして守ったお姉ちゃんの気持ち、分かる気がするもの」

「……え?」

「いえ、何でもないわ」


鼻を啜った音の所為で哀ちゃんが何を言ったのか分からなかった。
でもさっきよりも哀ちゃんの表情は柔らかい。
それだけでとっても嬉しくって私も笑った。


「…明美さんのこと、思い出して辛くなる時があると思う。そしたら私も一緒に泣くから。志保ちゃんは一人じゃないからね」

「……っ」


哀ちゃんの目から一粒、雫が落ちる。
それを皮切りに溢れ出した涙を人差し指で掬ってから抱き締めた。
一人じゃないよ、って気持ちを込めて。
縋り付く様に私の服を握ってきた哀ちゃんの頭をぽんぽんと優しく叩く。

あぁ、そういえば…有希子さんもあの時、こうしてくれたっけ。
不安で不安でしょうがなかった時、有希子さんが抱き締めてくれた。
それを思い出して少しでも哀ちゃんが笑えますようにと声を出す。




「…ねぇ、志保ちゃん?明美さんにはなれないけど…私のこと、お姉ちゃんだと思って接してみて。私が不安だった時、有希子さんがね…私は工藤家の一員だって言ってくれたんだ。凄く…嬉しかった、救われた気がした。血は繋がってないのにそう言ってくれて。そんなに簡単に受け入れることは出来ないと思うけど…少しずつで良いから、そう思ってくれたら嬉しい」

「……努力してみるわ」

「…うんっ!」


すぐさま断られると思っていたけど、目の前の哀ちゃんは頬を微かに染めてそう言ってくれた。

私にとっての光が工藤夫妻や蘭達…工藤君である様に、哀ちゃんにとって私がこの子の光になれればと思う。
……明美さん、志保ちゃんのことは任せて下さい。
頼りない私だけど…私が志保ちゃんを守ってみせますから。

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