運命の人 | ナノ


重ねてしまった影



急いでいた私の足がぴたりと止まる。
…あぁ、遂にこの時になってしまったのかと思いながら、空回る思考をザーザーと強く降り続ける雨の音が脳内を冷ましていく。
差していた傘は地面に落ちて、少しだけ跳ねた。

どしゃぶりの中に倒れている体を抱き上げる。
どれだけの時間、雨に打たれていたのかは分からないけれど…この冷たい体温では5分や10分の短い時間でないことだけは確かみたいだ。
傘を拾うことさえ惜しい私は逸る心を抑えながら工藤邸の門をくぐる。


…腕に抱いた茶髪の小さな女の子を静かに見つめた。







「……ん…っ」


睫毛を震わせて目を開けた灰原の目に映ったのは知らない天井。
覚えているのは、ざざ振りの雨の中を彼の家を目指して走っていたこと。
急速に縮んだ体の所為で、どうやって辿り着いたかも分からないくらいがむしゃらに走っていた気がする。
…彼の名字の表札を見て、安心して、倒れてしまった。
我ながら情けないと灰原は自分の腕で目を覆う。

するとガチャリと扉が開く音がして、腕を少しだけずらして音のした方を見やる。



「あ、起きたみたいだね」

「!……おね…ちゃ…」


ハッとした時にはもう遅く、出てしまった声をもう一度戻すことなんて出来ない。
…背丈も顔も声も、何もかも違う人に何故お姉ちゃんを重ねてしまったんだろう。
居た堪れなくてすぐに視線を逸らしたけれど、フッと見えたのは私と同じくらい険しい表情をしている彼女の顔。



「…目が覚めて良かった。寒いでしょう?体が温まる物持って来るからちょっとだけ待っててね」



そう言ってまた部屋を出て行ってしまった彼女の背中を見つめる。

彼女が…倒れていた私を拾ってくれたのだろうか。
……あの工藤新一と同居しているという、名字名前が。



彼女が私の目の前にいるということは此処は十中八九、工藤邸。
きっと気付いてないんでしょうね…この家に組織の調査員が派遣されたことも。
一瞬見ただけだけど鈍感そうだし。

だけどどうして彼女は…あんな顔をしたのかしら。
彼女は私のことを知らない、見たこともないだろう。
なのにどうして…。


考えても出て来ない結論に灰原は考えるのを止めた。
ベッドと暖房のお陰で寒さは緩和されているけど、体の芯はまだ寒くて小さく身震いする。
少しでも暖かくなろうとベッドを口元まで上げたと同時にノックがして扉が開いた。

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