護る為の銃
自分の目で確認した訳ではないけど、毛利さん…コナン君が推理を始めたらしい。
……水って怖いな…こんなに弱るなんて思ってもみなかった。
コナン君の推理を毛利さんの声で聞きながら、少しでも体力を回復させようと試みる。
…足手まといになるのだけは嫌。
すると…私の肩にパシリ、と何かが当たる。
ゆっくりと肩に当たった物が何かを見る為に首を動かす。
私の手元にあったのはスペードのエースのトランプ。
工藤君の…トランプ。
無意識にそのトランプを掴んでいるとまたしても爆発音がして地面が揺れる。
何事かと思っていると立たされて首に突き付けられたのはナイフ。
ひんやりと冷たいナイフの温度が、死の淵にまた立たされていることを表している。
「皆、動くな!動くとこの子は死ぬぞ!!」
「……っ」
顎に当たるナイフに恐怖を感じた。
抵抗すら出来ない私のこの体調じゃたかが知れてる。
ゴゴゴ、と地鳴りが響いてコナン君達の足元が崩れていっているのを見ていると沢木さんに腕を掴まれて階段を上がって行く。
もつれそうになる足を無理やり動かす羽目になって息が荒くなってきた。
「……っは…はぁ!」
「早く走れ!殺されたいのか!!」
…貴方の所為でこんなにヨロヨロなんですよ!
なんて頭の中で悪態をつくけれどそれを言葉にすることは出来ない。
エレベーターに乗り込んで着いたのは屋上のヘリポート。
「何してる!着陸しろ!」
人質にしてる私が見えてなのか、沢木さんが持っているナイフが目に入ったのか…分からないけれどヘリコプターは降りて来ない。
「名前―――っ!!!」
毛利さんの声がして皆が来てくれたことが分かる。
そこにはやっぱりコナン君もいて。
危ないのに…どうしてっ。
「来るなぁ!来るとこの子の命は無いぞ!!」
「名前さんを離せ!離さないと撃つぞ!?」
「面白い、撃てるものなら撃ってみろ!」
白鳥刑事の声が裏返ったのが聞いてとれる。
私を盾にする様に自分の体の前にやって顎を上にやられた。
無理に顔を掴まれているからか痛い。
「辻を殺して俺も死ぬ!この女も道連れだ!…ヒヒヒヒヒッ!!」
沢木さんの笑い声が耳元で響く。
…こんな時に思い出すのは工藤君の顔で。
彼なら何とかしてくれるんじゃないかって思ってしまう。
でもそんな彼は今、コナン君としての体だし…危険なことはさせられない。
「…拳銃を寄こせ。何をしている、早くしろぉ!!」
拳銃を渡すことを渋っている為、脅す様に私の首元にナイフが軽く刺さる。
ちくりとした痛みと一緒に恐怖が倍増した。
沢木さんの手が少し動くだけで、すぐにでも私の命を奪えてしまう…、
「ボウズ、お前が持って来い」
「…!?」
「この女が此処で死んでも良いのか!?」
だ、め……それだけは駄目。
無意識に持っていたトランプのエースをぎゅっと握り締める。
手の中でくしゃりと音をたてたそのトランプが、私を強くしてくれている気がして。
「……コナン、くっ…渡しちゃ駄目…!逃げ、てっ」
私が傷付くことよりも、君が傷付く方が何倍も辛いから。
生きたい気持ちは変わらない。
けどそれよりも強い気持ちがあることに気付いてしまったから。
君が無事なら、それ、で。
「……、工藤…くん?」
拳銃を構えて此方に狙いを定めているコナン君に工藤君の影が見える。
撃つ気、なの…?
工藤君が撃鉄を起こして、弾丸を発射しようとしているのが見えて目を開いた。
銃口から弾き出された銃弾が私の左の太股をかすっていく。
微かに熱い左足の痛みの所為なのか、足に力が入らなくなって気が遠くなってしまった。
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