kiss...o
すうっ、と突然肺に酸素が入ってくる。
目を開けると…コナン君が目の前にいた。
安心させてくれる様に微かに笑みを浮かべている。
大丈夫だって言ってくれている気がして、さっきまでの不安と絶望が緩和される。
助けようとしてくれているのか私にペットボトルを渡して、コナン君はフェラーリを持ち上げようとしている。
けれど大人でも持ち上げることなんて出来ない車を持ち上げられる訳が無く、ギリギリと歯を食いしばっていた。
すると何か打開策が浮かんだのかコナン君が上着を脱いで車から離れようとして……足が引っ掛かっている。
コナン君!?
最悪の展開が頭を過っている間にもコナン君の酸素は無くなって、遂には口から酸素を吐き出して体を浮かべた。
考えるよりも先に体が動く。
思考を占めるのはただただコナン君を死なせたくない思いだけだった。
ゆらゆら揺れるコナン君の腕を掴んで引き寄せる。
さっき肺に吸い込んだ酸素を、彼の顔に両手を添えて口から吹き込む。
映画のワンシーン、現実でそうそう体験することはないと思っていたことをまさか自分がやるとは思ってなかった。
自分の中の酸素を全てコナン君に渡す。
一気に水が口から、鼻から入ってきていよいよ意識を手放す瞬間…コナン君と目が合った。
……コナン君が無事ならそれで良い。
私が死んだら…どうなるんだろう?
こうして苦しさも感じるのは生きている証だけど…私はトリップしてきた身だ。
死んだら、元いた場所に帰るんだろうか。それとも本当の死を迎える?
分からない…分からないけれど、この世界からいなくなることが悲しかった。
…工藤君と、まだ一緒にいたかったな。
暗い意識の中、誰かが私を見つめている。
“あなたはまだ死んじゃいけない”
“助けたい子が…いるんだよね?”
“守りたい人たちがいる”
“だったら…生きなきゃ”
“生きることを、諦めちゃダメ”
……誰かが、私を呼んでいる。
名前、名前って…大きな声で。
起きないと、…生きないと。
「っつ、ゲホッガホッッ!!!」
「名前ねーちゃん!」
「名前!」
「こな……ら、ん…」
あぁ、この声だ。
さっき…コナン君と蘭の声が聞こえていた。
諦めちゃダメだって思わせてくれた声。
「大丈夫か?」
「もうり…さん…?」
「コナンがお前を助けたんだ」
「……そか…ありがと…コナン君」
「い、いや…」
何故か顔を赤くしているコナン君の表情が気になって理由を聞きたかったけど…そんな余裕は無かった。
大量に水を飲んでしまったからなのか、余り身体に力が入らない。
ボーッとする中、出口が見つかったらしく爆破された窓ガラスから逆に海に出ることになった。
「名前、もう一頑張り出来るか?蘭も俺の後について来れるな?」
「う、ん」
毛利さんの言葉に小さく頷く。
行くぞ、という合図に大きく息を吸って止めた。
力が入らない私を毛利さんが連れて行ってくれているから割と余裕はあるけれど、苦しいことに変わりはなくて頑張って息を止め続ける。
光に近付いていき、一気に視界に空が映った。
地上に出れたのと酸素が吸えたことの安心感で余計に力が入らなくなってしまう。
毛利さんが先に上がっていた白鳥刑事に私を預けてくれる。
白鳥刑事に横抱きにされて引っ張り上げられた。
「……助かったんですね…事件は、終わったんでしょうか?」
「今の爆破で殺そうとしたみたいですが…こうして助かったんです、もう大丈夫ですよ。安心して下さい」
椅子に座らされて一息つく。
…本当に終わったのかな、この事件。
胸のざわつきがおさまらなくて、でも自分でも驚くくらい弱ってるからなのか考えがまとまらない。
ぼうっとしていると毛利さんの声が聞こえて来た。
どうしたんだろう…?
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