私の事と天使様御降臨
「名字名前。…………両親、妹は事故死。親戚等はいるかもしれませんけど…親姉妹とは他界しているみたいです。これがその時の新聞記事」
『………』
工藤君から手渡された新聞記事を見ると爆発炎上している車が白黒で映っていた。私にそんな記憶は無い。だって元の世界ではお母さんもお父さんも勿論、妹だって元気に暮らしていたし妹は家に来て泊まっていたりもしていた。
自分の生きている証がこの世界にあるのも不思議だけど、いるのが当たり前だった家族がいないのも実感がわかない。
『………一人ぼっち、か』
乾いた笑いさえ出て来なかった。分かるのはぽろぽろとまた涙が出て来ている事だけ。心にぽっかりと穴が空いている様に感じる。
私はこれからどうしたらいいんだろう。この世界でどうすればいいんだろう。戸籍はあったらしいから死ぬ事はないかもしれないけど…孤独感に苛まれている今、何も考えられない。
…真っ暗だよ。
目の前が真っ暗で、暗い迷宮に閉じ込められたみたいに身動きが出来なくなっている。
「一人ぼっちじゃないですよ」
『……?』
「…俺はこの世界での今の繋がりでしょ?名字さんが無事にこの世界で過ごせるようになるまで俺がサポートしますから。もしかしたら元の世界に戻る方法だって見つかるかもしれないし。大船に乗ったつもりでいて下さいよ」
また昨日と同じキラキラ笑顔。
その笑顔にドキリとしてしまった事を気付かれない様にさっきと同じ様に毛布を被った。何だろうあの反則的笑顔、一撃KOだよ…!
「あと……大変、言いにくいんですけど」
『…何?』
「名字さん、年齢16歳でした」
『……………ほわい?』
「21歳の名字名前さんはいなくて…もしかしたらって調べてもらったら16歳だったんです。事前に名字さんから聞いていた家族構成も間違いは無かったので合っていますよ」
新聞記事に載っている両親と妹の名前も合っているし、顔写真も間違いは無い。それじゃあ本当に…?
私の身長が少しだけ低くなっているのも、髪の毛が長くなってるのもその所為?思い返してみると高校時代は髪の毛を伸ばしていた。じゃあ…本当なんだ。
16歳って事は…5歳若返ったのか。…何て事なの。
『……』
「学校はどうするんですか?」
『学校なんて行ってる暇無いよ』
仕事探さなきゃって思ったのに高校生だって事は正規に働けないって事で。バイトでも大丈夫だけど…朝昼夜と働くしかないなぁ。
生きていくには食べなきゃいけないし、寝なきゃいけない。お金がいる事ばかりだし、寝床も探さなきゃいけない。あ、その前に工藤君に依頼料を払わないと。
『依頼料はまた今度でもいい?働いて絶対に返すから』
「……さっき俺が言った事聞いてました?」
『はい?学校の事?』
「違いますよ。名字さんが無事にこの世界で過ごせるようになるまで俺がサポートするって言いましたよね?依頼料なんていりませんよ。学校だってうちの親か、何だったら阿笠博士に言えば協力してもらえると思います」
…うん?工藤君は私に学校へ行けと言ってらっしゃる?いやいやいや、また高校生をやり直せと?コナンみたいに小学生をまたやり直すって訳じゃないから退屈はしないだろうけど、退屈以前についていけるか分からないし、第一高校に通ってる場合じゃない。
『そんなに迷惑かけられないし学校行きながらじゃお金稼げないから。工藤君にはお世話になったし何と言われようと御礼はします』
「だからっ…」
「新ちゃーん!」
そんなに都合良く事が運ぶ訳が無い。
けれど駆け寄って来る天使の足音は走るスピードを緩める気配を見せない。
バタン!!と一際大きな音がして扉が勢い良く開く。
「新ちゃん!ママのお帰りよー!!…って、あら?だぁれ?その可愛い女の子?」
大豪邸に天使が舞い降りました。
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