一方通行(仮)
2:50 15 Oct


「聞いてください先輩」

ちょこんと隣に座った狩屋が言う。
なに、って聞き返そうとしたら横から突進された。
俺の胸に顔を埋める狩屋を剥がそうと頑張ってはみるものの、がっちりホールドされてて無理。
何だよ急に気持ち悪い、そう言おうとして動かした口が、言葉を紡ぐ前に止まる。

「いちゃつくなら他所でやってくれ……」
「し、しんど、ちがっ」

ばたん。
神童に追い出されてしまった。
今日は元々神童の家でまったりするはずだったのに……余計な奴が着いてきたせいだ、うん、絶対そうだ。

「もう何なのお前」

ちらり、少し振り向くと狩屋が小石を蹴りながら歩いていた。
俺の視線に気が付いたらしく、にやりと目を細める。

「先輩の邪魔ですよ、邪魔」
「最低」
「どっちがですか」

瞳に映る狩屋はもう笑っていなかった。
そう言われると俺が困ってしまうのを、多分こいつはわかってる。
わかってて言ってる。そういう奴だ。

好きだと告げられたのは最近のことだった。
俺は神童が好きだったから当然断ったのだが、こいつは「神童先輩ですね」とすっぱり言った挙げ句、俺の邪魔をするようになった。
おかげで神童には狩屋と付き合ってると思われるし、本当にため息しか出てこない。

「俺の気持ちわかってるくせに神童神童って」
「だから断っただろう!?」
「じゃあなんで本気で俺を拒絶しないんですか?」

これ、これだ。
俺が最低な理由。
俺は神童を好きで、それを邪魔してくる狩屋が憎くて、嫌いで、神童に誤解されるたびに顔も見たくないほど嫌になるのに。

「嫌いって言ってください。それで、諦めるから」
「……え、」

あの狩屋から「諦める」なんて言葉が出てくるなんて思いもしなかった。
そんな自分に呆れる。
自信過剰だろ、俺。
何をしても狩屋が自分を好きでいるなんて、どこにもそんな保証はないのに。

「…どうしたんですか、先輩」

たった一言、嫌いって言ってしまえばもう先輩の邪魔はしませんよ。
狩屋は何でもないかのように笑っていた。
でもこいつは本音を隠すのが上手いから、きっと今も作り笑いだ。
そう思うと胸がぎゅっと苦しくて、たった一言が言えなくて、……あんなに心の中では思ってたのに、言えなくて。

「先輩はずるいね」

何も言えず俯く俺を嘲笑うように、今にも泣き出しそうな声で狩屋は言った。




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