部活の無い日曜日 23:58 10 Oct 偶然コンビニで会った霧野先輩は、エコ袋を腕にぶら下げてきっちり三秒間停止した。 「邪魔ですよ、そこ」 ちょうど扉を開けようとしたところに先輩が中から出てきたから、俺は一歩下がって出口が空くのを待っていた。 ハッと我に返った先輩は、ばつが悪そうに道を空けた。 こんなとこで会うなんて、とでも言いたそうな顔をしている。 俺はちょっと面白くなって、先輩の持つ袋をしげしげと見た。 パックの紅茶とお菓子、といったところだろうか。 「覗くな」 そう言って、先輩は袋を後ろに隠す。 残念、少し遅かった。 「紅茶飲むんですね」 「悪いか」 「いえ、むしろ神童先輩の方が飲みそうだと」 キャプテンの名前を出せば、先輩が反応するのはわかりきっていた。 いつでもどこでも神童神童、正直なところうんざりだったが、それでも挑発してしまう自分は一体何なのか。 「ああ、俺はそんなに紅茶好きじゃないけど」 神童がよく飲んでるから、と照れ臭そうに先輩は笑った。 なるほど、好きな人の好きなものは自分も好きになりたいってやつですか。 本当に先輩はキャプテンが好きですね〜っと。 「狩屋」 「はい?」 「なんか、怒ってる?」 「やだなあ先輩、何に怒る必要があるんですか」 そう、怒ってなんかいない。 先輩がキャプテン厨なのは今に始まったわけでもないし。 ただ、ほんの少し面白くないだけ。 「それより先輩、今から遊びに行くんですか?こんなにお菓子買って」 「行くんじゃなくて、来るんだ」 「ああ、神童先輩が」 「なんでわかっ」 「あれ、当たりですか」 何となくそうかなって思ったらやっぱりだった。 いろんな意味で期待を裏切らない人だ。 紅茶を買ったのは、そのためでもあったんだな。 ……本当に、面白くない。 「っ、目にゴミが……」 俯いてごしごしと乱暴に目を擦ると、先輩が「擦るな」と俺の手をとって顔を覗き込んだ。 顔が近いのを良いことに、俺は目の前にある先輩の唇に自分のそれを重ねる。 触れるだけの、軽いキス。 ぱっと離すと、先輩は顔を林檎のように真っ赤にして口をぱくぱく。 金魚みたいって笑ったら拳骨された。痛い。 「じゃあ先輩、また明日」 満足げに微笑んで、コンビニの中に入る。 先輩はまだ、そこに突っ立っていた。 あーあ、今からキャプテンに会うのにね。 |