無(自覚+意識) 0:57 18 Dec 「狩屋、ぼーっとしてどうしたの」 はっと意識を戻すと、天馬君が俺の顔を覗き込んでいた。 なんでもないよ。 平静を装って答えれば、わかったのかもよくわからない顔で「ふうん?」と天馬君は信助君に向かってボールを蹴った。 「ほら、影山が困ってるよ」 天馬君が指を差す方向には、ボールを蹴ろうか蹴るまいか、いかにも悩んでいる様子の輝君がいた。 そこで俺は今、二人一組になって練習をしていたのだったということに気付く。 ごめんごめん。 へらっと笑うと、輝君はほっとしたようにボールを俺へと一直線に蹴った。 * 練習が終わり、部室で着替えていると輝君がどうしたのかと聞いてきた。 恐らく、練習中に呆けていたせいだろう。 何と言っていいかわからず答えあぐねていると、にっこり笑った信助君が元気良く言った。 「狩屋、霧野先輩のこと見てたよね!」 これには俺も驚いて、ただただ信助君を見つめることしかできなかった。 それは決して信助君の声が大きかったというわけではなく、自分がどうして呆けていたのかわからなかったからだ。 気が付いたら、練習中だった。 気が付いたら、天馬君に声を掛けられていた。 霧野先輩を見ていたなど、俺にはとても信じられない。 けれど、第三者から見た俺はそうだったらしい。 霧野先輩を見ていた。 それが事実だ。 「俺がどうかしたって?」 信助君の声を聞いた霧野先輩が、制服をぴしっと身に付けて言った。 また俺の悪口か?と俺に向かって意地の悪い笑みを見せる先輩に、輝君も信助君も、ぶんぶんと首を横に振る。 「違いますよ、狩屋が練習中に先輩を見てて、」 「ばっかそれ本人に言う!?」 慌てて信助君を止めるもすでに遅かったようで、先輩が不思議そうに俺を見ていた。 「何か用でもあったのか?」 「いいえ、何も」 全くの無意識だったと答えたら、先輩はどんな顔をするのだろう。 気まずささえ感じるその視線から、俺は早く逃れたかった。 「狩屋は霧野先輩が好きなんだね!」 おいこら待てなぜそうなる!! |