幼馴染みがこっちをじっと見つめてくるのですが
1:58 23 Nov



「ルートヴィッヒ、何の絵を描いているの?」

皿洗いを済ませたヘンリエッタがひょこっとキャンバスを覗き込むと、そこには真っ赤なウェーブのかかった髪と、その鮮やかな色と同じ衣装を身に纏った女性が描かれていた。

「ヒントをやろうか」

覗き込んだまま動かないヘンリエッタをからかうように、ルートヴィッヒはくすくす笑う。

「ひとつ、お転婆で猪突猛進な女の子。ふたつ、危険を省みない危なっかしい女の子。みっつ、自分のことには激しくどんか」
「もお!ルートヴィッヒったらあいかわらず意地悪なんだから!」

自分をからかうのが好きな幼馴染みに、ヘンリエッタはぷくっと頬を膨らませた。
そして、彼が描いたのは自分だと冷静な頭で考えると、彼女の顔はみるみるうちに青ざめる。

「……ヘンリエッタ?」
「る、ルートヴィッヒ、まさかこれ、具現化しようだなんて思ってないでしょうね」

彼は描いたものを具現化する能力を持っている。
やっと左手で絵を描くことに慣れた彼が自分を描いてくれたのは素直に嬉しいのだが、そういう可能性もなくはなかった。
じっとり、疑うような目でヘンリエッタに見つめられたルートヴィッヒは、困ったように肩を竦める。

「はあ?そこまでは考えてなかったけど……やってみる?」
「えっ」
「ケルペルング・フェ」
「ストーップ!待って!バカ!」
「バカとはなんだ」

必死の形相で止める彼女の姿を、ルートヴィッヒはにやにやしながら見ていた。
旅を始める前から好きだった相手。
今、こうして彼女と一緒に笑い合えることがとても幸せだと感じた。
一度は諦めかけた未来が、確かにここにある。

「好きだよ、ヘンリエッタ」

滅多にこういった明確な言葉を言ってくれない彼に、ヘンリエッタは目を丸くして驚いた。

「わ、私もよ、ルートヴィッヒ」

恥じらいながらも一生懸命想いを伝えるヘンリエッタを愛しく感じながら、ルートヴィッヒはまた、筆を動かした。




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