無題
2:21 27 Oct



俺には家族がいない。
母親が病で亡くなり、父親は他に女を作って俺を捨てた。
見兼ねた親戚が幼い俺を孤児院に連れて行って、それだけ。
ずっと一人だった。
精霊が見えるようになってからは大分マシになったけれど、俺はいつだって虚しかった。

『自分を認めてくれた宝玉獣たちが家族?絆?……笑っちゃうよ、本当は誰でも良かったんだ』

影を纏ったもう一人の俺が嘲笑った。
見下すような目で俺を見て、鼻で笑う。

『でも、十代は違うよね』
「……っ!」

十代、と後ろにいる親友の名前を出されてひやりとした感覚が俺を襲った。

『十代はその他大勢なんかじゃない。だって十代は俺を必要としてくれる。精霊なんて不安定な存在でもないし』
「……やめろ、」
『俺だけを見て欲しい!だって俺は十代が』
「やめてくれ!!」

好きだ、十代が。
でもあいつはモテるし第一男同士だし、気持ち悪いだけだよなって一生隠しておくつもりだった。
好きな人の幸せが自分の幸せ、だなんてかっこつけた台詞は言えないけれど、俺は、ただ、

『良い子ぶんないでよ、これが俺。君が認めたくない俺なんだ』
「違う……」
『精霊に執着してるのだって、一人ぼっちになりたくないからだろう?』
「そんなこと思ってない!!」

もう嫌だ、見ないで。
見ないでくれ十代。
こんな醜い姿、好きな奴に見られたくなかった。

「……ヨハン、」

今まで黙っていた十代が、ゆっくりと口を開く。
幻滅、されただろうか。

「俺はどんなお前でも受け入れる。それがヨハン、お前自身なら」
「……俺、自身?」

十代の言葉がすとん、と入ってきて、俺は目の前の自分を見つめた。
橙の目、前に施設の奴から「気持ち悪い」と言われた。
翡翠色のカラーコンタクトで隠しているが、それが本当の俺。
そうだ、こいつは確かに俺なのだ。
誰からも愛されなくて、愛されたくて、暗い海の底をもがいているかわいそうな俺。
そんな自分に酔っている、認めたくなかった俺自身。

「……俺、家族って羨ましかった。擬似的なものでもいいから欲しかった。でも、宝玉獣たちはそれ以上の存在だよ。上手く、言葉で言い表せないぐらい」

へらり、自分に向かって笑ってみせる。
作り笑いじゃない、心からの笑みだった。
無表情な橙の目から、水滴がぽたりと垂れる。

「全部、受け止めるから」




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