照れ殴り系女子
16:18 24 Oct



「霧野さん、帰りましょうか」
「え、あ、あ…うん、」

ファミレスでのバイトが終われば一緒に帰る、それが二人の決まりごとだった。
男性恐怖症で男ならなんでも殴ってしまう霧野を見兼ねた狩屋は、それを克服するまで面倒を見ると誓った。
バイトのたびに殴られはするが、今霧野に一番近い男は自分だろうし、何より彼女は「すぐ殴る」という点を抜きにしたら普通に優しくて思いやりのある良い子なのだ。
これは同情かもしれない、しかし根が真面目な狩屋はそんな霧野をほうっておけるわけがなかった。
彼女と帰るときは手を繋ぐ、といっても触ると殴られるのでマジックハンド越しだ。
その長さ分二人には距離があって、縮まるのはまだまだ遠そうだと狩屋はいつも思う。
霧野の男性恐怖症が治ったら理不尽に殴られる心配もなくなるし、もう少し寛容に接してあげられるのに。

「……あの、さ、狩屋」

もじもじと恥ずかしそうに口を開く霧野。
自分よりも頼りなさげなその姿に、この人本当に年上かと思う。

「はい、なんですか?」
「……いつもごめんな、殴って」

しゅん、と申し訳なさそうに俯く霧野。
今日は四回ぐらい殴られた、もちろん傷はまだ痛む。

「いい加減慣れましたよ」

慣れたってなんも嬉しくねーけどな、と心の中で付け足す。
霧野の目が不安げに揺らいだ。

「本当に、申し訳ない……」
「大丈夫です。少しずつ、男性恐怖症を治していけばいいんですから」

ね、とマジックハンドを少し持ち上げる。
手を引かれた霧野はパッと顔を上げて、嬉しそうに頷いた。

「うん、頑張る」

その満面の笑みに少しどきっとした狩屋は、マジックハンドを引いて霧野の手にちょんと触れてみた。
突然のことに驚いた霧野の顔が、みるみるうちに赤く染まっていく。

「…な、あ、いっいやああああああああ!!」

当然のように霧野の拳が飛んでくる。
身体能力がずば抜けている狩屋も、これだけは避けられなかった。
ずしゃあ、と音を立てて狩屋が地面に倒れる。
イケメンに分類されるであろうその顔は、真っ赤に腫れ上がっていた。

「まだ、だめ……ですか、」
「わ、わーっごめん狩屋あああああ!」




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