最近、良く思う事がある。どうしてあたしは素直じゃないんだろう、って。あたしが千鶴のように素直だったら、きっと何かが今と変わってたんじゃないか、って何度も何度も。
所詮、人間は無い物ねだりをせずには生きられない未発達な生物なのだ。だから自分に無い物が欲しくなる。そう言えば昔、テレビで人間は未発達だからこそ伸びしろがある、なんて言っていたのを思い出した。確かあれは生物学のお偉いさんがドキュメンタリー番組の最中で言っていた言葉だった気がする。
「あのさ、悠太」
「なに?」
「悠太は高橋さんって子と付き合う事にしたんだよね?」
「うん」
デート現場を目にするのも結構くるものがあった。けれど、それ以上に本人の口からその事実を肯定された今の方が精神的ダメージは大きい。
ああ、我ながら何てしつこい女なんだろう。まさかここまで自分が女々しいとは思いもしてなかった。自分では淡白な方だと思っていたのに、人間判らないものだ。
「そういう名前は付き合ってる人とか、好きな人はいないの?」
「悠太は居ると思う?」
「居てもおかしくは無いでしょ」
だってオレ達、お年頃ですから。なんて言いながら悠太はあたしの隣を歩いてた。速過ぎず、遅過ぎずのペースで。ちょっと前までは心地良かったその間隔が今はとても虚しい。
何でこんなに近い距離に居るのに、物凄く遠く感じるのだろうか…。
「悠太、あんまり名前をイジメないでよ。泣いちゃうでしょ」
「別にイジメてないよ」
「だって名前の声が震えてる」
そう言って祐希は自転車を止めた。今まで少し前を走っていた祐希が止まった事で、その後ろを歩いていたあたしと悠太も祐希が自転車を止めた地点の少し後ろで止まった。
祐希はあたしの声が震えてると言ったけど、そんな事ある訳ない。ちゃんと笑えてるかと聞かれたら多少不安だったが、あたし自身は至って普通だ。生活態度は今日遅刻しかけた事を除けば何も変わりはない。
「ねぇ、悠太」
「どうしたの祐希」
「悠太は高橋さんって子と付き合ってるんだよね?」
「うん」
「じゃあさ、名前にちょっかい出すのやめてよ。名前はオレとお付き合いしてるんで」
2012/01/25
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