祐希と二人きりになって会話が無くなった。普段なら、例え二人になろうが些細な会話を続けていた筈だ。今日の授業はああだった、とかこうだったとか。暫く無言のままだったが、その沈黙に耐えきれなくなったあたしは、突発的に祐希に話を振る事にした。内容は今日最後の授業だった日本史の話だ。

昔の人って本当に偉大だよね、なんて言ってみたが「そうだね」と返されて終わってしまう。話の広げようが無い。ハァ、とあたしが溜息をついていたら不意に「あのさ、」と声を掛けられた。その声の持ち主はあたしの隣を歩く祐希のものだ。



「何?」

「オレ、名前が好きだよ」



突然過ぎて、意味が判らない。祐希があたしを好き?そんなの有り得ない。あたしは別段美人でも無ければ可愛い訳でもないのだ。

成績や運動神経だって標準並。そんなあたしが、祐希に好かれる箇所なんて何処探したって見つからない。きっとあたしの聞き間違いだ。



「ごめん、聞いて無かった」

「名前も酷いよね。オレの一世一代の告白を聞き逃すなんてさ」

「告白…?誰が誰に?」

「オレが、名前に」



返事は後で良いから、なんて言いながら祐希は先に行ってしまった。そして再び訪れる沈黙。目と鼻の先にはあたし達の住むアパートがあって、祐希はその階段を登っていった。それを見てあたしも何も言わないまま自分の家に帰った。

おかえり、と言って迎えてくれたお母さんに「ただいま」と伝えてから自室へ移動した。そして部屋に一度荷物を置いてから着替えを持ってお風呂場へ直行する。シャワーを浴びたあたしは、湿った髪をタオルで乱暴に拭きながらベッドの上に横たわる。そして夢だったら良かったのに、なんて言いながらあたしは静かに瞳を閉じた。



「オレ、名前が好きだよ」




一瞬…悠太に言われたのかと思って、身動きが取れなかった。ほんと不覚だった。願望が優勢になっていたせいで自分に都合の良い考えしか出て来ない。今だってそうだ。考えてみれば判る事なのにね。祐希があたしに告白するなんておかしいのに、何故一瞬錯覚したのか。

もっと早く状況を理解して気付くべきだったのだ。祐希は冗談じゃないよ、なんて去り際に言っていたけれど、それはきっと彼の嘘。あの告白はあたしをからかって遊んで居ただけ。だから冗談なのだ、絶対にそうに決まってる。否、そうでなければいけなかった。徐々に意識が薄れだし、視界が暗転する。黒から白へ、白から黒へ。何度か繰り返される色彩変化のせいで瞼の裏がチカチカした。


2011/11/18

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