バタン!という大きな物音が聞こえて、私は目が覚ました。何が起きたか判らなかったが、先程まで寝ていた布団から飛び起きた。それから左右を見やり、音の原因を把握した。私の部屋は外部から障子を隔てた場所にある。そして今、私の家の私の部屋の戸に手を掛けているのは幼馴染みの柔兄やった。

私の家、苗字家と志摩家は俗に言うお隣さん。父親同士が同級生らしく、昔から家族ぐるみで仲が良かった。そして私は柔兄の弟の金造が同い年であり、金造が呼んでいるからという理由で柔造さんを柔兄と呼び、慕っている。そう、慕っているんだ。だけど寝起きの姿を見られるのは年頃の女としてはかなり恥ずかしい!



「なあ…柔兄、いきなりどうしたんや…?そんなに慌ててはる柔兄を見るんは初めてや」

「手ぇ、触らしたって」

「手ぇ?ええで」



布団の上に上半身を起こしているだけで恥ずかしさは未だ消えない。けれど、やけに動揺している柔兄を落ち着かせるために、私は困惑しながらも両手を差し出した。その両手は一度軽く握られて、それからギュッと力強く握られた。まるで離れるな、とでも言わんばかりに。

それと同時に柔兄の口からボソボソと言葉が発される。それが上手く聞き取れなくて、耳を柔兄に近付けようと布団から身を乗り出した。その瞬間、身体は強引に引かれ、私は柔兄に抱き締められる。あまりにも突然の事で身動きが取れなくて、頭の中が沸騰しそうだ。



「な、なあ…ほんまにどうしたん?今日の柔兄は元気がのうて、柔兄やないみたいや」

「……夢を、見たんや。俺の人生で一番恐ろしう夢を…」

「せやかて私らは祓魔師やで?そんなオカルト的なんは慣れてる筈やないか」

「……俺が見たんはそないな夢やない、……を失う夢やった…」



こんなにか細い声で離す柔兄を見るのは初めてだった。普段の柔兄は何時もは飄々としていて蝮姉さんとの喧嘩が絶えないのに…。だからなのか私はどうしようも出来なくて、ただ柔兄の背中をさすりながら話しを聞く事しか出来ない。

無力な自分に腹は立つが、柔兄がこうなってしまった原因に自分が居るかもしれないという事の方に余計に腹が立った。それにしても私が柔兄の夢に?一体、夢の中の私は何をやらかしたのだろうか。



「私?…私はここにおる、逃げも隠れもせぇへんよ」

「…堪忍な、名前。ありがとう、生きててくれて」



不意に耳元でその言葉を言われて、何故か私の胸が高鳴った。緊張した時と同じような感覚のそれは、未だ警鐘のようにガンガンと胸を打っている。でも、不思議と嫌では無かった。

そんな感情と同時に、さっきの高鳴りがした場所とは別の辺りがズギズキと痛む。その感情を人はそれを嫉妬と呼び、私は無自覚のまま、柔兄の夢の中の自分に嫉妬していた。そして私が柔兄が好きだと言う事に気付くのは、もっともっと先の話。





(未来を知る術は無いのだろうか)



2011/07/30


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