「……わたしは、名前の泣き顔が苦手だ。だから、泣かないでくれ」
小平太が困っている。嗚呼、私はこの顔が好きだった。ううん、これだけじゃない。無邪気な笑顔や、不貞腐れた顔、怒った顔、おどけた顔に、慌てた顔、コロコロと表情の変わる小平太が愛しくて、本当に私は好きだったのだ。
ごめんね、小平太を好きになってしまって。貴方に会えばこうなることを判っていながら、少なからずこうなればいいなって望んでいた自分がどこか居たのだ。
「…それは貴方のエゴだ。泣くも笑うも私の勝手。それに…私は嫌いだもの。誰にでも優しくて、笑顔が眩しい小平太が嫌い」
はっきりとした口調で言い切りたかったのに、声が震えてしまう。
思っても居ない言葉を口にするのが、こんなに苦しいとは思わなかった。
「だが、わたしは」
「さあ、茶番は終わりにしよう」
生かすか殺すか、そのどちらかでしか私達は分かり合えない。それが忍というものだ。
逢瀬の時間はもう終わり。ここから先にあるのは、命取り。
2013/09/14
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