どこか意識が半濁している最中、誰かにそっと手を握られた感覚がして私は浅い眠りから目を覚ました。閉じていた目を開くとそこにいたのは何処か不安げに瞳を揺らす金吾の姿が。どうしたんだ、と起きたて特有の野暮ったく怠けた声で言葉を発すると金吾は瞳を揺らしながら小さな両手でぎゅっと私の片手を握りしめてこう言った。先輩がこのまま起きないような気がして怖かった、と。そんな金吾を見て愛らしいと思う。

私にはこんな可愛らしい時代など無いに等しかった。いや、もしそんな時代があったのだとしても当の昔に過ぎ去ってしまっているから私自身判らないのだけど。私は寝そべっていた身体を上半身だけ起こし、今にも泣き出してしまいそうな金吾の頭を優しく撫でた。それからぷにぷにと柔らかい頬を一度撫でてから両の手で金吾の顔を捕らえる。



「私は何処へも行かないよ」

「…本当ですか?」

「ああ、金吾を置いてどこかへいけるわけがないだろう」



私は金吾が大好きなんだから、と軽く微笑みながら言えばさっきまで不安げな表情が一変。花のような笑顔を見せてくれた。なんて可愛い後輩だこと。それから私は金吾を膝の上に向かい合うように乗せる。

そしてこれはまじないだ、と口にしてから金吾の額に自らの額をくっ付けた。私は何時でも金吾の傍に、と。我ながら下手な芝居を打ったと思う。それでも金吾が安らげるというならば、やって損は無かっただろう。



「苗字先輩!」

「ん?」

「俺、先輩を護れるようにもっと強くなります!」

「…おやまあ。それは頼もしいね。期待して待ってるよ、金吾」

「〜〜っ、はい!」



何時、如何なる時に死ぬかも判らぬこの時代。そんな時代に生まれた私達の傍に常に平穏があるとは限らない。この先、どんな困難が待ち受けるかは自分自身のことであろうとも知ることは出来ないのだ。だからこそ、まだ見えぬ先を考えるよりも今ある目の前のことだけに目を向けよう。

今、こうして近くにある微笑ましい時の流れを実感するのはとても悪くは無いものだ。可愛い後輩と共にぬくぬく日向ぼっこして、きっと私にとってこれ以上に幸せなことは無いのだろうな。




(…今日は久方振りにみんなで一緒に昼寝でもしようか)
(い、一緒にですか?)

2013/10/23



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