遠く彼方から演習開始を知らせる笛が鳴った。そして札を取るため仕方なく鉢屋と行動を共にする。というのも、組み分けが発表され悪態をついていた私を鉢屋は強引にこの開始地点まで引き連れてきたのだ。

其れゆえに私の足取りは重い。だが成績が掛かっている手前、今回の演習のペアが鉢屋であろうと妥協は出来ないのだった。



「鉢屋、」

「なんだ早速やるのか?」

「後方支援は任せる」



そういって、木の上から視界の端に見える茂みに苦無を投げると弾けるように二つの影が飛び出した。どうやら私の第六感は今日も冴え渡っているようだ。茂みの中に潜んでいた忍たま二人が悔しそうに眉を潜め私を見ている。そんな彼等を見て、私の口角は無意識に上がっていた。さて、と一歩足を踏みしめる。

後方には鉢屋が控えている。もし危ないと感じたら手助けくらいはしてくれるだろう…なんてどこか他人事のように思いながら片足を引こうとした瞬間、私に向かって数枚の手裏剣が投げられた。無論、避ける事は容易だ。しかし避けた場所に向かってもう一人が苦無片手に飛び込んできた。何て判り易い陽動作戦だ、と口には出さないが頭の中では冷静にそれらに対応する流れを組み立てる。



「もらった!!!」

「…甘い」



私は避ける際に体制は崩していない。ならば、と瞬時にその場にしゃがみ込んで背後から迫り来る忍たまの足を払い相手の体制を崩させた。私が足払いしたことで体制を崩した忍たまは瞬時に私から距離を取ろうするがそう簡単に逃がすものか。私は隠し持っていた鎖鎌を相手に投げつけた。鎖はその男の身体を捕らえ、鎖によって身動きできなくなった忍たまが地面に倒れこむ。これでまずは一人だ。

一体一、ともなればこちらも動きやすい。私がこいつを留めている間に鉢屋がもう一人をどうにかしてくれるだろう、なんて考えていると不意に背筋に張り詰めたものを感じた。真冬でもないというのに凍て付くような寒さに襲われ、ゾクリと鳥肌が立つのが判る。





「名前!後ろだ!」



そんなこと鉢屋に言われなくとも判っている。確かに背後から人の気配はするのだ。けれど、何故か振り向けない。体が硬直し、地面に足が縫い付けられているかのようだった。こんな威圧感を放てる忍たまが居るというのか?もしそうだとしたら、そいつはとんだ策士だ。

そうこうしている間にも言い表せない威圧感は私の背後へと忍び寄っていた。的確に、私の命を狙って。そしてヒュンと風を切る音が聞こえたと思えば、背後からはらりと焦げ茶色の髪が舞う。



「っ、鉢屋!」



動かなかった身体が動くようになったのを確認して、私は振り向く。するとそこには鉢屋と灰褐色の忍装束を纏う男が苦無を持って対峙していた。あれは誰だ。先生ではない。ならばこの学園に入り込んだどこぞの忍、ということになる。背格好からしてあれは男だろう。どこの忍びかは判らないが、少なくとも私が太刀打ちできる相手ではないことくらい容易に理解できる。

そして太刀打ち出来ぬ相手に挑むことがどれほど愚かなことかということも。だがここで易々と敵を逃がしていいものでもない。そんな矛盾渦巻く私の心中を理解するものはこの場に存在しないだろう。とにかく、今はこのことを先生方に知らせねばならない。とすれば伝令役が必要だ。



「っ、おい!」

「私達が死守する。伝令は頼んだ」



私はとっさに手にしていた鎖鎌を引いた。そして先程まで鎖で縛り付けていた忍たまを近くに寄せ、その身を縛り付けていた鎖を解く。会話は至って簡潔に。この場でああだこうだの言われてもこちらとて突如出現したこの忍に困惑しているのだ。

さっさと行けと睨んでやれば、彼等も理解してくれたのか一目散に森の中へと姿を消していった。あとは私達が彼等が逃げる時間を稼ぐだけだ。



「鉢屋、」

「心得た」





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