「三郎、これから演習だって言うのに変な空気にするなよ…。ったく、ごめんな 苗字さん」

「別に、竹谷くんが謝る必要は無いよ。不躾なのはコイツだし」



そういって目の前に庇う様にして現れた竹谷君の背中から顔をひょっこりと出し「そちらこそ足手まといにならないでくださると助かります」と笑顔で言ってやった。そしてその言葉を言い終えたと同時に先生方から各班の開始地点が提示される。そして竹谷くんの「それじゃあ行こうか?」というたどたどしい声を合図にして、私たち三人は足を進めた。

そして数分後に始まった演習。手持ち札は菖蒲の五光が一枚と梅と薄のカスが一枚。誰がどの札を持っているか、またどのポイントにどのように隠されているのか。当たり外れは全て運任せ。




「なあ、さっきから追われてないか?」

「どこの班かは知らないが、暫く前から付いてきているな。相手にしてやってもいいが、彼女には少し荷が重いのでは?」

「その言葉、そっくりそのまま貴方に返す」



追っ手なら私一人で片付けますので、と言って踵を返す。名前を呼んで静止を促してくれた竹谷くんには悪いが私も我慢の限界だ。コイツとは根本的に合わない。だからこそ楽しみにしていた演習なのに、今では「嗚呼、早く終わってしまえばいいの」にとさえ思うのだ。私はそれらの言葉は口には出さず、心の中で悪態をつきながら火の付いていない煙玉を相手方向に投げ、刃先の潰れた演習用の手裏剣を投げて切った。今回所持している煙玉の主成分は即効性の眠り薬。

火が使えないということもあって爆発による使用範囲の拡大は出来ないものの、相手の視界を奪い怯ませることや運がよければ相手の意識を奪うことも出来る。何せ、仕込んだ薬は善法寺先輩のお手製品だからだ。ああ、何故私が先輩と仲良くしているかと言うと偶然にも不運に見舞われていた善法寺先輩を以前助けたことがきっかけなんだけど、まあそれはまた別のお話ってことで。



「まずは一人、」



善法寺先輩の即効性のある薬でくのたまが一人脱落。その横についていた男の懐に入り込むなり短刀を引き抜き、柄を鳩尾に食い込ませる。痛みで悶える彼には悪いがこれも演習なのだから仕方ない、彼には我慢していただこう。

そして残るは一人。男相手に真っ向勝負なんて馬鹿らしい。忍者たるもの相手の不意を付いてなんぼのもの。卑怯な手を使う専売特許であると自負している。素早く短刀を持ち替え、利き手で手裏剣を投げ込む。それと同時に相手の背後に回り首を取る。



「そんな罠、引っかかる訳ないでしょう。さあ、諦めなよ」

「!?」

「札さえ出せば痛くはしない」



うろたえる男を尻目に私は溜息をひとつ。待たされるのは嫌いだ。多少の猶予を与えたがうろたえて動き出そうともしない。そんな男に痺れを切らし、私は男の首に一打を加え気絶させ、札を探した。この班が持っていたのは梅と松の短冊と菖蒲のカス。まあまあ好調な滑り出しだといえる。そう思っていると不意に視線を感じた。この不快な視線はアイツだ、と視線の先を見やるとそこ居るのはやはり鉢屋。アイツは少し離れた木々の中に先程とはまた違う笑い方をして立っていた。

距離があるため声は聞こえなかったが、彼の口は「なかなかのお手前で」と言っているかのように動いて見える。それからは特にこれといった事件はおこることもなく、三人一組らしく皆の足先を揃えての行動を開始し、出来札を揃えていた。そうして私達三人の班は成績上位という素晴らしい結果を修め、初めての演習を終えたのだ。



2013/09/19


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