「俺、手嶋野尚。宜しくー」

「私は田端えりか。こっちは目黒翔、宜しくねー!」



新生活が始まるという不安と新たな出会いに期待を抱えながら入学したこの高校。幼馴染みの翔が同じ学校、そして同じクラスだった御陰か、隣の席の手嶋野とはすんなりと会話する事が出来た。それに今後も仲良くなれそうな気がする。

手嶋野の以外のクラスメートとも軽い自己紹介を済まして新学期特有の友達作りに励んだ結果、男子は皆見、瀬々、元井、御堂、女子では悠や春湖、百花と普通に話せるようになった。これは思わぬ収穫だ。



「ねぇ、親睦を深めるって名目でカラオケでも行かない?」

「良いね、クラスみんなで行こう!」

「じゃー出欠取って予約しようか。みんなー注目お願いします、広木です」



悠の提案で、クラス全体で親睦会をする事になった。勿論、私が行かない筈がない。こんなに良いクラスメート達と出会う事が出来たのだから、もっと仲良くしたいって思うし、あわよくばこの出会いをきっかけにカッコイイ彼氏をゲットしたいっていう本音も実は少しだけあったりする。

これは女の子なら誰もが頭によぎる考えの筈だ。周りからよく女の子らしくは無い言われても、私も一応女の子。少しくらいは夢を見たいなーって思っても悪くは無いだろう。




「ハイ、じゃーかんぱーい」

「かんぱーい!」



その言葉を合図に親睦会がスタートした。私の周りにはまだ一度も喋った事が無い人達ばかりで、これは腕が唸る。取り敢えず片っ端から声を掛ける事を決めたのだが、自分が思っているよりも簡単に事は進まなかった。

人数が多くて二部屋に分けられている事もあって全員回るとなると移動が少しばかり面倒だ。移動するのがだるいな〜なんて思いつつ、私は取り合えず今自分が居る部屋の子達と仲良くなるためにお喋りを始めたのだった。



「私、田端えりか。宜しくね」

「おう。俺は七浦晃、宜しく」

「七浦は何か歌わないの?」

「歌うも何も、あいつらがマイク離さない限り無理だろう」

「あー、確かに」



マイクを持ちながら元井と…誰だっけ?まだ喋った事のなければ名前も知らない男子がノリノリで歌っている方を見ながら私は一人クスクスと笑った。

見た目で判断して、ちょっと怖そうだなーなんて思ってた七浦だったけどふたを開けてみてビックリ。話しやすいし、面白い。





「じゃー今から男女で別れるから女子あっちで男子こっちね!ハイ、さっさと移動ー」

「移動すんの面倒だな……はぁ。しょうがないか。じゃあね、七浦」

「お、おおー」



今度は男女に別れての部屋割りになるらしい。せっかく七浦と楽しく会話していたのに、なんて思いながら重い腰を上げる。そして自分が注文したアイスコーヒーを手に取って、悠が指定したもう一つの部屋へと移った。

女子だけの部屋で行われたのは女子特有のガールズトーク。クラスの中の誰がカッコイイだの素敵だの可愛いだの、そう言った感じの話で、私も掻い摘んで会話には加わっていた。嗚呼、女の子って本当におしゃべりだ。



「………あれ?」

「どうしたの?」



話に区切りがついたところを見計らって持っていた自分が注文したアイスコーヒーを飲んだ……筈だったが、コップの中に入っていたのはアイスコーヒーではなくコーラだった。コーヒーだと思って飲んだせいか、やけに甘ったるく感じる。

それにしても一体、誰のなんだこのコーラは。さっきまでの行動を思い返してみるが、コーラ飲んでた人なんて男女合わせても多過ぎて検討もつかない。そう言えば確か、七浦も飲んでいたような気がする。今更慌てても仕方ない事だし、後で謝ればいいかと悠長に考え、私はそのままコーラを一気に飲み干した。



**



ところ変わって、男子の部屋。こっちもこっちで誰が可愛いとか、好みかって話になっていた。ガールズトークならぬボーイズトーク真っ盛りだ。男子内で名前が上がったのは広木や田端とかその他何名か。

広木も田端も少ししか喋ってないが、話易い奴だったし、好かれる要素は持ち合わせてたし、まあ判らなくもないな。あ、そういや広木の話には元井が、田端の話には目黒がやたら食い付いてたな…と言葉には出さず思い返しながら自分のコーラを手にとって口に含んだ。



「ぶはっ!!!」

「な、七浦?どうしたんだよ、いきなり吹き出して」

「これ、」



俺のじゃない、と言いかけた言葉は喉の奥へと飲み込んだ。ここで事実を話したところで周りからかわれるのが目に見えているからだ。俺が頼んだのはコーラだった筈。でも、さっき飲んだのはアイスコーヒー。色が似ているから気が付かなかったが、何処かで飲み物が入れ違いになったらしい。

そして入れ替わったのは多分、田端のコップとだ。アイツが俺の隣に来た時、ふわっとコーヒーの匂いがしたから。結局俺は「何でもない」と呟いて、そのまま乾いた喉をアイスコーヒーで潤した。




**





「うっわー、デカいなこれ」

「えりか、スカートでそんなところ登ったら危ないよ?」

「へーき、へーき!落ちてもそこに翔居るし、道連れにするから」

「はっ!?何で俺?」



ガールズトークを終えた私達はカラオケで一度解散をしたのだが、その内の何人かで県営球場の明かりを見に来ていた。

七浦に確認を取ってから謝ろうとも思っていたけど、タイミングが悪くて言い出せずに時間だけがただ過ぎている。



「えりか、気を付けろよ」

「うん。てかそんなとこで見えてんの?」

「馬鹿にすんな、御前よか10センチも身長高いんだからな」

「はいはい」



翔と他愛ない会話をしながら、私の視線はライトに向いていた。闇を切り裂く光。

それはまるでゼレストリアに降り注いだ閃光と少し似ていた。







「えりか!ちょっと、えりか!!」

「んっ、あーお母さんか」

「7時くらいに連絡網があったのよ。土砂崩れが起きたから、今日は臨時休校だって」

「んー」



どうやら私は懐かしい夢を見ていたらしい。しかもかなり長く寝ていたようで、時間は10時を過ぎていた。それにしても珍しい事もあるものだ。あの夢以外の普通の夢を見るなんて。あーあ、と大きな欠伸をして二度寝をしようとしたら携帯が鳴った。

何てタイミングの悪い奴、と邪険にしながら携帯を開いてみると、それは悠からメールだった。そこには12時に親睦会を行ったカラオケに来て、という簡潔な文章のみ。



「遊びの誘いにしてはまた簡潔なメールだこと」



特にする事もなかった私は、取り敢えず「判った」とだけメールを返送しておいた。そして少し柔軟をしてから外出の準備に取り掛かる。身支度や軽い朝食を済ませていたら、時間はもう11時だ。

うちから駅までは自転車でだいたい40分弱の距離。玄関先でウォークマンのスイッチを入れた私は行ってきます、とリビングに居るであろう親に告げ、自転車に乗って走り出した。



(20110224)


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