思い返してみると、よりあの記憶に不可解な部分が多いと感じてしまう。もし、真実を知る者いるというなら、その真実を包み隠さず話して欲しい。

何故自分達が死ななければならなかったのか。それが簡単に判れば苦労しない。それが簡単じゃないからこそ、こうして私達は悩んでいるのだから。



「文字や魔法、きっかけは何だっていいんだ。仲間探し、してみる?…仲間を探す事、それについての皆の意見は?」

「私は反対。これ以上、余計な火種は生まない方が良い」

「俺も反対。ゴタゴタすんのが目に見えてるだろ、」

「てめーから喧嘩ふっかけてきといてよく言うよ!」

「わーってるよ!そういう自分が一番面倒なんだ!」

「…俺は仲間探しに賛成だ。戦争の事実が知りたい!」

「あ、あたしも賛成!」

「…俺は、考えさせて」

「私は反対」

「まあ、そりゃー割れるよね。皆見や瀬々の意見も聞きたいし、今日は解散にしょうか。それぞれ気持ちを整理しておこう」



悠の一声で今日の会議は解散となった。自分の荷物を持って、ロビーに向かって歩く。ロビーにはバイト中の瀬々が居て、みんなが集まってからは何故かのほほんとした空気が漂っていた。この世界にとって異質な私達でもこうして溶け込めるのだ。

御蔭で、さっきまで室内に立ち込めていた不穏な空気は微塵も感じられなかった。今この場にあるのは、まだ皆が前世の記憶を知らなかった頃に話している時の様子とよく似ている。


「そう言えばさ、西園会いたい奴居るって言ってたじゃん。誰?」

「あ!えっと…!だだ誰って言うか、その…あ〜〜んと〜」

「ああ、男か」

「…!!」

「男って言えば…ベロニカ様にも居るだろ。会いたい男が」

「あーあいつか、」

「城中みんな知ってて公然の秘密っつーか、な!俺と同じ騎士見習いのグレイ・シュライバー」

「グレンとの事…覚えておいでですか?」

「…覚えてるよ。初めてあった時は、血まみれで中庭にいたね」



グレイ・シュライバー。その名前を私はどことなく知っていた。家に帰った私は、そのままベットに寝そべった。目を閉じれば今でも鮮明に昔の事が思い出せる。それはあくまで過去で、今では無いと言うのに。時折、過去にしがみつきたくなる時がある。それは何処か自己暗示にも似てる。私は其処まで考えて、閉じていた目を静かに開けた。目を開けて見えるのは自室の天井。

目を閉じる前は明るかった空が、今はもう薄暗い。どうやら少し眠っていたらしい。今日はもう休もうと、ベットから身体を起こし風呂場に向かう。風呂場ではさっさとシャワーを済ませて自分の部屋に戻り、まだ微妙に濡れている髪を無造作に拭って布団の中に潜り込んだ。




**




城の中庭にはたくさんの緑が生い茂っていた。新緑の緑が鮮やかで、その中に時折可憐な花が咲いている。色とりどりの花はどれも小ぶりなものなのに、一つ一つの存在がハッキリとしていた。その日も退屈な書類整理をサボって場内の片隅で俺は寝そべっていた。こんな所でサボっているのがバレたら一大事だが、ここはあらゆる場所から死角になっているから、そう簡単にバレる事はない。

他国の城だというのにこう寛いでしまうのは騎士として如何なものかとも思うが性分なのだから仕方ないだろう。それにこの城は死角も多く警備も甘いから俺としては過ごしやすい事この上ない。ふあ〜と大きなあくびをして眠ろうとしたら、聞き覚えの無い声が耳に入った。聞き間違いかと思ったが、念のためと閉じていた目を少し開く。視界に入ったのは長い髪、大きな胸の膨らみ。



「御前はモースヴィーグの者だな、ここで何をしていた?」

「いい天気だったので昼寝でもしようかと思いまして……その、申し訳ありません。こんなんじゃ騎士失格ですね」

「いや、こんなにもいい天気なんだ、ゆっくりしない方がおかしい」



初対面であるのに、其れを物ともしない彼女が不思議だった。彼女の対応自体がとても新鮮なもので、素直に嬉しかったんだ。

だから錯覚だったとしても、彼女の姿が女神のように見えたのかもしれない。こんな考えを持っていたとは、我ながら恥ずかしい。



「そうだ、御前の名は?」

「失礼しました。俺はユージン様仕えの近衛騎士、ヒース・シュヴァリエと申します」

「そうか、私はベロニカだ。宜しくな、ヒース」






ふあーと情けない顔を曝しながら大きな欠伸をして、今となってはすっかり見慣れた通学路を自転車に乗って走る。昨夜は懐かしい夢を見た。あれはベロニカと初めて出会った日の事で、今までも何度か見ていた夢だった。皆見がベロニカであると判った今は、何だか不思議な感じがする。ベロニカが皆見で、皆見がベロニカ。あとは悠の正体さえ判れば少しばかり落ち着ける。

耳にはイヤホンを嵌めて、そのイヤホンのコードはウォークマンに繋げている。見慣れた通学路、聞き慣れた音楽。どれも慣れたものなのに、今の私には其れすら新鮮に感じられた。今日から2日間、予定通りであればクラスマッチが行われる。



「“思い出せ”か…」



学校に着いて指定の場所に自転車を止め、校舎に向かっていたそんな時、悠からの着信。通話ボタンを押して「もしもしー?」なんて軽く声を掛けたのだが、其れは見事にスルーされた。スルーされた事に少しへこんだが、気を取り直して次の言葉を告げようと私は口を開く。けど、其れは言葉になる前に悠によって遮られた。遮られた言葉は学校が大変なことになっているというもの。その言葉の原因となった場所に向かうと、其処は確かに異様な雰囲気だった。

普段なら綺麗に整備されている校庭、そこの中心に「思い出せ」と書かれていた。それも書かれた文字は御丁寧にあの国の文字。だからこそ余計に質が悪いし、これと言った特徴も無いため相手を特定する事は不可能だ。



「…クソッ、忌々しい」



その場に立ち止まって、暫く経った。授業開始のチャイムは鳴ってないから、まだ時間には余裕がある筈だ。余裕があると言っても時間が気になる。そっと携帯を取り出して、時間を確認して見たら、時刻はHRの10分前だった。

ここは学校だし、一般人が居る手前、魔法を使うなんて事は出来ない。それに、魔法を使ったって犯人を特定出来るとは限らない。第一、犯人を特定する魔法は存在しない。少し考えて、私は大人しく教室に戻る事にした。



(20110404)


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