「落ち着け!七浦!」

「何だよ、広木!そういう御前はどっちの味方なんだ!?」

「……私か?私はゼレストリアの王女ベロニカ」

「!」



その言葉は一つで、この場一体の空気が凍り付いた。悠は七浦の前を通って、元井に手を差し伸べる。

悠が、ベロニカ?嘘だ、そんなの嘘。信じられない。



「王女!何故こいつを庇う必要がある!元井だけじゃない、素性の知れない田端まで」

「止めてってば!七浦…!」

「っ!離せ、西園!」

「だって!昨日まで私達、普通の友達同士だったじゃん!」

「同じことだろ!昨日まで同盟を結んでいた国の奴等がいきなり攻め込んで来たんだぞ!?」

「そんなの、こっちだって同じだよ」



七浦の口から飛び出す言霊が、酷く耳障りだ。そんなの、七浦に、ゼレストリアの人間に改めて言われなくとも私たちは身を持って知ってる。判ってるんだ。

幾ら私でも、そこまではっきりと言われたら傷付かない訳がない。寧ろ、悔しいとさえ、悲しいとさえ思う心がある。



「王女、アンタだってモースヴィーグの奴等を、みんなを信用していただろ…!!」



何も知らないくせに、と言葉にしようとしてからふと我に返った。こんな事を言うつもりじゃなかった。私は中立であろうとして、なのに口が滑りそうになった。身に染みついていた当時の記憶が、無意識そうさせたのかと思うととても複雑な気分だ。

確かに怒りという感情が芽生えたのは私の胸中。自分の肉体であるのも関わらず、自分なのに自分じゃない感覚の矛盾が、この上なく今の私を苦しめる。



**





晴澄がベロニカだと知って嬉しかったのに、今は何故か複雑な気分だった。学校が休校である事を利用して晴澄や高尾と合流した俺は、晴澄の提案で人があまり来ないという瀬々のバイト先までやって来た。そこで偶然にも瀬々と合って、少し他愛ない話をしてから三人で指定された201号室へ。部屋について第一に話し合った内容はこれからの事についてだった。

そんな話をしていた時、何処からともなくドンッと大きな音して、俺はビクッと肩を震わせた。高尾が警戒しながら部屋を出て行ったので俺もその背を追い掛けた。部屋を出て直ぐのところに居た瀬々から、広木達もここに居ると聞いて足早に階段を駆け上がる。そこで見たものは剣幕なオーラを漂わせた七浦と、モトを庇うようして立つ田端の姿。



「(瀬々と田端以外の奴等…、昨日一緒に魔法を見たやつばっかりじゃないか…)」


「何か見覚えがあるような…」

「…うぅ…気持ち悪い」


「(あークソっ!どうなってる……七浦がゼレストリア人で、広木がベロニカを語って、モトがモースヴィーグ人で…)」



そこまで考えて、疑問に感じた事が一つある。田端は昨日、俺達とは一緒に居なかった筈だ。それは一緒に魔法を見て居ないって事で、でも、田端はモトを庇ってる。そう考えると、田端はモトと同じモースヴィーグ人ってことか?

だとしたらモトを庇っているのも、ゼレストリア人である七浦と対立してるのも頷ける。普段見せない感情を剥き出しにしている田端を見たのは初めての筈なのに、俺はその姿を知ってるような感覚に捕らわれた。そんな事を考えていたからなのか、何故か俺には田端が泣いているように見えた。



(20110314)


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