現在、悠に指定された集合時間の5分前。カラオケボックスに着いた私は自転車を所定の位置に止めた。そして携帯を開いて「今着いたよ」と簡易的なメールを悠へと送る。

ぼけーっと返信待ちをしていたら電話が掛かってきて、その内容はもう中に居るとの事だった。確か、部屋の番号は301号室。一応フロントに人数の届けを出してあるらしい。判った、と電話を切ってフロントへと足を進めると、そこには見知った顔が。



「瀬々…?何やってんの?」

「やー何か俺以外の人みんな風邪引いたみたいでさー。それに俺等の学校が休みって全国的に知られてんじゃん?だから借り出されたって訳」

「あードンマイだね。ところで瀬々、悠来てるっしょ?」

「広木?ああ、広木達ならもう来てるよー。301号室ね」



ありがと、と言葉を残して私は階段を上がる。そして301号室の部屋のドアを一度ノックしてから入った。部屋の中には悠と百花、七浦と元井がいる。

あーそう言えばさっき瀬々が広木達って言ってた、なんて思いながら取り敢えず元井の隣が空いてたら、悠の前を失礼してそこに座る。



「…んで、何でこのメンツ?」

「あのさ、来て早々に悪いけどえりかも皆見のノート見たよね?」

「あーうん」



部屋の中はどこか不穏な空気が流れてて、遊び名目で呼ばれている訳でない事が頷ける。それに私が呼ばれた理由が皆見のノート。

そう言えば、皆見は大丈夫だったか?私が逃げ出したから結局あの後無事に帰れたか判らない。友人として心配だ。



「じゃあ、ここに居る私達だけでもハッキリさせよう。百花、七浦、モト、えりか」

「何を?」

「これは憶測だけど、みんなベロニカの城に居たって事で間違い無いよね。そして、自分が何処の誰だか思い出した?」



ベロニカ、その名前が悠の口から出るとは思わなかった。その名前が出るという事は記憶を持っているという事。つまり悠達も誰かの生まれ変わりってことになる。

そしてその変化を訴えるのは皆見のノートを見た者だ。悠や百花、七浦や元井も昨日あのノートを見ていた。それに悠がノートについて私に確認をするのだから、原因はそれで間違いはない筈だ。




「じゃあ確認するね。百花は協会の神官、リリー・エクルストン」

「うん」

「七浦はゼレストリアの騎士見習い、コットン・オルヴェ」

「あー」



どうやらこの中にベロニカは居ないらしい。いや、もし居たとしたら私はどう考えどう動くのだろうか。知っている人物がが見付かれば確かに嬉しいけれど、そう簡単にいくとは思ってない。人間の流れなんてそんなものだ。絶対に邪魔をされる。それにゼレストリアやモースヴィーグが互いに憎しみ合ってる可能性も捨てきれない。

昨日の出来事があった時、微かに聞こえたのはゼレストリアとモースヴィーグという2つの国の名前だった。だから七浦がゼレストリアの騎士見習いと明かした今、此処で私の身元を明かすのは少し危険だと思う。これで隣に居る元井もゼレストリアと答えたら私一人がモースヴィーグの人間になってしまう。どうするか、と一人考えていたら元井のターンになっていた。



「モトは?」

「?モト、どうしたんだ?」

「お、オレは……モースヴィーグの、騎士」

「!」



元井がそう答えた瞬間、七浦の瞳の色が明らかに変わった。私はゼレストリアとモースヴィーグの間にあるものを軽視し過ぎていたらしい。七浦は腕を上げ、鈍い音をさせながら元井を殴った。その反動で元井は壁に背中を叩き付けられ、ズルズルと壁伝いにしゃがみ込む。

元井が素直な性格なのは判っていたけど、七浦はそれ以上なんだろう。感情がそのまま運動神経に直結しているらしい。このままでは元井が危ないと、元井の前に出た。正直、七浦に殴られそうで鬼のような形相を浮かべる七浦の前に立つのは怖い。



「何だよ田端!どけ!御前はどっちの味方なんだよ」

「味方がどうとか以前に、七浦が暴力を止めない限り、私は退くつもりはないよ!」

「関係無い奴は引っ込んでろ!俺が用があるのはこいつなんだ。こいつの、モースヴィーグのせいで俺達は、ゼレストリアはなぁ!」



人間は極限状態に陥ると何をするか判らないとよくいうけど、今が其れだと思う。力で強いることはしたくない。でもこの状況ではどうにもならない。

素早く髪を一本だけ抜き取り、天に供物を捧げるように構え、矛先を七浦に合わせた。



「……さっき七浦は私に言ったよね、御前はどっちの味方だって。それに答えるよ。私は元井の、モースヴィーグの味方」




(20110302)


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