さよなら滑稽な殺し屋さん




オレが思うに、この人はびっくりするくらい、とっても優しい人だ。



「宮地さんの目って、とっても綺麗だね」


きょとん、間抜け面を浮かべて、宮地さんはプイとそっぽを向いた。あーあ、宮地さんの目、見えなくなっちゃった。身を乗り出して、宮地さんの顔を覗き込もうとした。振り向いた宮地さんはしかめっ面で、俺がジッと見つめると、ふてくされた様に頬杖をついて俺の頭を小突いた。


「いったあい!宮地さん、暴力反対!」

「お前が変なこと言うからだろ」


だって、本当のことじゃん。眉間にしわを寄せる宮地さんに、心の中で叫んだ。本当は窓を開けてグラウンドに大声で叫びたいくらい、たくさんたくさん言いたかったが、それをやったところで何が変わるわけでもない。本当に、宮地さんの目はとっても綺麗なのだ。
例えば、宮地さんの目はビー玉みたいにきらきら輝いてるんだ。太陽の光が反射して、ピッカピカのオニキス色に光る。その目が綺麗だなあ、って思ってジッと覗き込むと、宮地さんの瞳の中の世界がまた輝き出す。ゴールネットだって、バッシュだって、本だって、公園だって。宮地さんの世界には、俺が見たことのない世界がたんと映っているんだ。だから、いいなあって。すっごく羨ましいなあって。


「ねえ宮地さん。宮地さんの目、欲しいなあ」

「あげる前にお前の目ん玉抉りとるぞ」

「あ、それもいいかもね。どうせふたつあるんだから、いっこぐらい頂戴よ」

「お前、頭おかしいんじゃねえの。轢くぞ」

「もー、宮地さんのいじわるー」


イスの背もたれに寄りかかり、ケラケラと笑うと、宮地さんはむすっとした顔で俺のイスのパイプを蹴った。ガタん、と振動が伝わるが、その強さは床に倒れるまではいかない程度のものだった。危ないなあと口を尖らせると、今度は軽く額を叩かれる。宮地さんの目には、楽しそうに笑う俺が映っていた。


「お前に目とられるんだったら、片方はお前の目とるからな」

「宮地さんナイスアイデア!それだったら、二人ともおんなじのが見れるね!」

「何がナイスアイデアだよ馬鹿。そんな嬉しそうにしてんじゃねぇよ」


だって、嬉しいじゃん。宮地さんの見てる世界も、俺の見てる世界も、みんなみんなおんなじになるんだよ。ふたつの視界がぐっちゃぐちゃにないまぜになって、きらきらに光るんだよ。宮地さん優しいから、きっと宮地さんの世界も優しいよね。

早く、おんなじ世界を見せてくれないかなあ。そっと宮地さんの睫毛に触れると、ものすごい剣幕で頬をつねられた。



∴さよなら滑稽な殺し屋さん


その優しさで、オレを殺してよ、



title:告別




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