私が彼に出会ったのは友人から誘われた『飲み会』



大手商社
海外事業部
将来有望株



その言葉に参加即決。
運命的な出会いは欲望渦巻く別名『合コン』で。





恋は盲目だ。
惚れたら最後冷静な判断なんて出来なくなる。じゃあ数ある隠れ欠陥住宅の中からどうやって優良物件を探しだすか、答えは簡単。

恋に落ちる前に・・・冷静な判断がつかなくなる前にある程度条件の合わないモノを先に切り捨てちゃえばいい。

学歴、年収、地位将来性。わかる事前情報を次々に秘密の篩にかける。
性格だけは現地見学。
数字的な情報は99%正確であったとしても、性格だけは人からの情報のみを鵜呑みにしちゃいけない。

ルックスは最後。タイプじゃなくたって、これは恋した盲目な頭で不思議と上書きできてしまうから。
最後に残った相手の好みを頭にたたき込んで、彼好みの女になりきれば運命なんて簡単に捏造できる。


東野 はな。


今年行った結婚式の回数
3回。


ぼちぼち遊びで恋愛していられないお年頃。






ジリリリリリ・・・


いつもより遠く聞こえるイタリア製の金属音。毛布に顔を埋めたまま、右手を伸ばすも指先が冷たい空気を切り裂くだけ。


んー・・・
五月蝿い。


指先には何も触れていないのに、ガチャンと小さく音がして部屋がまた静けさに包まれる。少し手を出しただけなのに指先がじん、と冷えてすぐに毛布に引き入れる。


今日、休みじゃん・・・


目覚ましをいつもの癖でセットしてしまったのだろうと、暖かい微睡みに再び落ちようとすれば今度は耳元でガツンと大きな着信音。


・・・日曜日の朝だと言うのに、とんでもなく迷惑者だ。


一旦毛布に埋めた腕を伸ばして折畳みの携帯を開くとディスプレイに現れた文字に血の気がざざっと音を立てて引いた。
音の主は着信ではなく、登録していたスケジュールを知らせるアラーム音。



やっば!キャンセルするの忘れてた!



昨日のうちなら熱が出たとか、調子が悪いとかいくらでも伏線がひけたというのに、携帯のデジタル時計は支度と移動が出来るギリギリの時間を表示している。

きっと朝の早いあの人だ、すでに準備をしているか下手をすれば既に家も出ている可能性もある。
断ってる時間がない。


毛布をはぎ取り辺りをぐるりと見渡せば、


います、いました。


私の篩をぶちやぶって転がりこんできた二次元の国から絶賛召喚中の期間限定王子様。学歴高卒、年収0、地位ヒモ、口が悪くて年下で。でもルックスだけはどストライクの大男。

艶々した零れる黒髪が、見慣れたベッドの上で朝日を浴びる。若干狭そうに腰を屈め、すやすや寝息を立てる姿に思わず息を飲んだ。


・・・幸いな事にまだ詳しい話は伝えていない。たった1日だけの付き合いならば、学歴も年収も地位も、話だけで誤魔化せられるかもしれない。




いける?

無謀?

現状、タダで寝床を提供してるんだ。うまくそこをつつけばやってくれるかも。



致し方ない・・・




ふぅっと大きく深呼吸。
今は寝顔にときめいている時間は無い。


「琥一くん!起きてっ!!急いで起きてっ!」


バシバシと容赦なく大きな身体を叩いて揺すって布団を無理矢理はぎ取る。


「あ゙ぁっ・・・?」


お願いだから睨まないで、眠りから覚めたいかつい黒髪王子様。


「頼みがあるの。」


今日も・・・平和的休日にはならなさそうだ。





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