・・・ジリリリリリッ あーもーうるさいっ! 頭上で喧しく鳴るシルバーの目覚まし時計。よくよく考えればコレもアイツの持ち物だった。音を止めるだけの仕草でいいはずなのにその数倍の力を込めて、盛大に鳴り響く無機物に向かって腕を振り上げる。 バシッ!! 「ってーなー!!なにすんだよっ!」 太い声は聞き覚えのあるトーンだけど、でもヤツじゃない。な、訳ない。 真っ先にいなくなったアイツの思い浮かべた自分がムカつく。昨夜は1人で 『2次元で生きてやる』 と高々に宣言したと言うのに、咄嗟に未練がましく3次元で一番思い出したくない顔が脳裏に現れる辺りがまたムカつく。 が、今はムカついてる場合じゃない。これは、不法侵入者ってヤツじゃないですか?鍵掛け忘れた?いや、第一オートロックはどうやって?まさか新手の強盗? 考えれば考えるほど・・・怖くて目が開けられない。 もぞり。目覚まし時計方向に延ばし切った腕を引っ込めようとすると、触れてない筈の目覚まし時計がピタリと鳴り止んだ。 「うっせーな・・・はぁ、休みの日くらいゆっくり寝かせろよ。」 もぞり。掛け布団がやわりと動く。間違いなく今動いたのは私じゃない。全く誰だか検討もつかないのに、声だけは不思議と知らない気がしない。 早まる鼓動がどくどくと耳に響く。 一人では若干ゆとりのあるセミダブルのベッドの上、背中に触れるか触れないかの位置に感じる生暖かい体温に向かって、恐る恐る身体を反転させた。 広い背中。 白いタンクトップから見える日に焼けた肌。 厚い肩。 真っ黒い髪。 ・・・ヤバい。 これは間違いなく自分の好みのタイプだ。 知り合いにはこんな良い身体の男はいない。 って事は、だ。 出張うんたら系? まさか。 酔った勢い自棄になってたとはいえ成人女性として、とてつもなくまずい事をしてしまったのか、 でも・・・ちらりと目を下に移してみたけど、自身の着衣に乱れはない様子。 じゃあこれは何? その心の声に反応するかのように、目の前の大きな身体が寝返りを打った。 漆黒のやや長めの髪が流れて顔にかかると、それが気持ち悪かったのか腕でそれをかきあげる。髪を押さえたゴツイ右手には二個のシルバーの大きな指輪。 『この指輪もそのうち商品化されたりねー!』 数日前、同じ趣味を持つ友人とした何気ない会話を思い出して、ドクリと身体に大きく血が流れた。 他人の空似? いや・・・髪降ろしたら、多分こんな感じだと思う。 「なに、ジロジロ見てんだよ。」 パチリと鋭く細い瞳が開けば中は綺麗なブラウン。 短めの眉にすらりと通った鼻筋。 「え・・・と夢?」 「あ゙?寝呆けてるなら寝てろっ。」 「うわぁっ!」 がしっと布団ごと引き寄せられ、触れ合った身体に体温がある事に身体が反射的に仰け反った。それをまた引き寄せてくる強い力に夢ではなさそうな事を知る。 back | next | list |