再び猛ダッシュで家に帰った頃には、流石に寝呆けた頭はどこかへ吹っ飛んでいた。疑り眼で、恐る恐るベッドを確認すれば間違いなく大きな身体が一体・・・いや一人。

それこそ猛獣にでも近づくようにそろり、ベッドサイドに近寄ればぐっすり眠りについている二次元在住だったはずの彼氏様。

しゃがみ込んで顔を覗き込むと、微かな寝息が聞こえてきて『息してるよ』なんて間抜けな事を考える。

いや・・・してなかったら相当怖いけど。





トリップ





どうやら私の置かれてる状況をこう呼ぶらしい。しかも通常はこっちからあっちに飛ぶのが主だって話だから、正確に言えば逆トリップ。もちろんそれも同人誌や夢小説等の作り物の世界での用語。


「あまりにも遅いから、昨日のショックで自殺したかとおもったよ!」


と、怒り浸透だった親友。現役コスプレイヤーで私にマニアックな知識をくれる彼女に朝から出会えたのは恐ろしくラッキーだった。

心配する親友を余所に、畳み掛けるようにして今朝の状況を説明したら、知識はくれたけど同時に有り得ない程心配された。


「はな・・・私が言うのも何だけど、失恋のショックで二次元に逃避するのはどうかと思うよ?それにGSに黒い髪の王子なんていないし・・・ねぇ、大丈夫?」




目の前で無防備に眠るのは忘れ去られた黒髪王子様。寝てればあの迫力のこの顔も可愛いものだ。


何げに睫毛長い・・・
顔、滅茶苦茶整ってるし。


琥一君でこの美麗さだったら、琉夏君はどんなんなのだろう。規格外の美少年?うーん想像の限界値。

ゲームのキャラなら大問題だけど、皆が皆、彼を知らないならここに眠ってるのは、ただの私好みの超イケメン。しかもいきなり私に"女になれ"ときたもんだ。

それって棚からボタモチどころか、宇宙から一等前後賞宝くじが落ちて来た級のミラクルなんじゃない?





でも


同時に横たわっている究極の選択。





『トリップのラスト?色々だけど・・・二次元でハッピーエンドか、三次元で夢オチのどっちかが多いんじゃない?』




『全部捨てる覚悟があんなら、こっち捨てて俺の所に来い。』




全部=三次元




つまりはそーゆ事なんだろう、と思う。




あのまま勢い余って連れていかれなくて良かったって気持ちと、あのまま勢い余って全部捨てて連れて去ってもらっちゃえば良かったって気持ちが、
綺麗にHalf&Half。

私が高校生位だったら、この冷静になった頭も吹っ飛ばして暴走出来たのに。



夢みたいな話なのに


何故か2択だけは
究極のリアリズム。


世の中そんなに甘くはないって事?二次元にそんな教訓いらないはずでしょ。



今の荒んだ頭だと
都合良すぎる夢さえ
楽しめないのですか?



大人って嫌だ〜。
頭は夢の中をぐるぐる回ってるのに肝心な確信部分だけは妙に冷静。

家族、仕事、生活・・・

全部なんて捨てれない!



嘘、多分それも大事だけど建前。



全部捨てて裏切られたら?誰かさんみたいに、いなくなったら?

立て続けに失敗したら、多分次は立ち上がれない。
しかも相手は2次元の世界の王子様。ある意味最強に危ないカケ。




色々考えてたらまた二日酔いなのか、めまいと頭痛が戻ってきた。

流石に今のこの妙に冷静且つトラウマな頭で王子様の眠るベッドに潜り込む勇気はなくて、ソファーの上で小さく小さく丸くなる。


起きてから考えよう。
起きたら、只の幸せな夢で終わってるかもしれない、


『聞いてよ!昨日すごいリアルな夢見てさぁ。現実捨てて二次元来いとか言われちゃって凄い悩む夢!』



・・・イかれてる。

2次元とリアルなんて、そもそも交じりえない世界。交じらないから楽しいんだよ夢と現実は。



ベッドの上の彼を何度も何度も確認しながら、気が付けばぐるぐる回る意識の中にゆっくり連れていかれていた。


−−−続く





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