「 手を繋いで帰ろう 」








『アルミン、みーつけた!』


積み上げられた木の箱の陰を覗き込んで、アルデが嬉しそうにその笑顔を咲かせた。


「わ、早いなぁアルデ…」
『えへへ、頑張ったもん!』
「へへ、そっか。じゃあ一緒にエレンを探しに行こう?」
『うん!』


二人で肩を並べて歩き、空の雲や珍しい花を指差して、時折笑顔を見せたりしながら楽しげに話している。


「……。」


エレンはそんな二人の姿を、木の陰に隠れながらこっそり遠くから見ていた。


「なんだ、結構仲良しじゃねぇかあいつら…。」


オレがいなくたって、
という言葉をつまらなそうに呑み込んだ。
現在三人で何をしているのかというと、だれもが一度はやったことがあるであろう子供の遊び。かくれんぼである。


「いつもオレの後ろばっかついてきてたのにな…」


ちら、と木陰から見つめるのは、親友であるアルミンと親しげに話す妹、アルデ。妹といっても血が繋がっているわけでもなく、養子の妹。でも、彼女とはかれこれ1ヶ月ほど一緒に生活しているわけであって、オレはいつの間にか彼女に対して過保護になっていた。


『それでね、あのね!──…』
「うん、うん。へぇ、そうなの?──…」


遠ざかる足音、話し声。
二人で何を話しているのかはわからない。でも、アルデが弾んだ声で楽しげに話している様子から、好きなもののことを話しているようだと感じた。


「……、」


青々とした空に手を伸ばす。
冷たい風がオレの開かれた手のひらを撫でるようにして吹いた。その冷たさに、アルデとお揃いで母さんが作ってくれたマフラーを口元まで上げた。


「……眠い──」


そのなかなか見つけてもらえなさそうな雰囲気と昼下がりの太陽の暖かさに、俺は木陰で微睡んだ。



早く、

早く、見つけてくれよ…────














──
────
──────
















『っ、ふぇぇ…うぅ…』
「……ん、?」


それは夜のことだった。
アルデが来てから間もない二日目の夜。彼女は、泣いていた。


『ママ、パパ…っ、』


ベッドの上で膝を抱えながら

シーツをぎゅっと握りしめて、
そっと声を押し殺して、

月が明るいその日には、涙が溢れていく様子さえも見えてしまう。彼女は確かに、お母さん、お父さんと言った。


「…」

『なんで私だけ、置いていくの…?

寂しいよ…
怖い、よ……


──会いたいよ…っ、』


「──…、」



──ああ、そうだ…。
母さんが前に言っていた。

アルデの両親は、亡くなったんだと。



「──、アルデ。」
『っ、!…おにぃ、ちゃん……』



涙を流した彼女が、ハッとしたようにこちらを向いた。涙に濡れた彼女の頬に、不安下げに揺れるその美しい大きな瞳に、俺は息を呑んだ。


「お前…なんで泣いて……」
『ご、ごめんね…なんでもないの……』


えへへ、と力なく笑うアルデに、胸が締め付けられる。


なんだよ、

なんでもなくなんかねぇだろ……



辛いなら辛いって、
寂しいなら寂しいって、


言っていいのに…────



俺は、アルデを抱きしめた。



『おに…ちゃ、…?』
「頼れよ…」
『ぇ……』

「我慢ばっかりしなくたっていい…

寂しいなら寂しいって言えばいい…


オレたちは、まだ子供なんだから──」

『でも、私はお兄ちゃんの本当の妹でもないし…っ、ここのお家にお世話になってる立場だから…ッ!そんなの、だめだよ…』



甘えるのは、だめ。
彼女は透明な涙をぼろぼろと溢しながら、小さくそう言った。


「だめなんかじゃねぇよ…!」
『…!』

「なにか辛いことがあって母さんや父さんに言えなくたって、オレがいる!だから、一人でこうやって泣くのはやめろ…
お前が寂しいと思ったときは、オレが側にいてやる…悲しいときはこうして抱き締めてやる…

オレは、お前に頼ってほしい…!」

『っ、…うぅ…

──お兄ちゃんっ、お兄ちゃん…!!』



オレの肩にじんわりと温かいものが広がっていく。小さな手が背中に回されて、離すまいとしっかりとオレの服を掴んでいた。
そうだ、

これでいいんだ。



頼ることを知らない子供なんて、
居てはいけないんだ──…



オレになにかあったら、一番先にアルデに。


アルデになにかあったら、一番先にオレに。



そうして頼りあって生きていこうって、
そう決めたんだ────…









────────
────
──















『──お兄ちゃん、お兄ちゃん。』
「……ん、」
「おはようエレン。よく眠ってたよ。」


うっすらと開いた目に飛び込んできたのは、オレの顔を覗き込んで笑うアルミンとアルデの姿だった。
どうやらあのまま木に寄りかかり寝てしまったらしい。


『もう夕方だから、帰ろう?』


そう言って伸ばされた手を、オレはそっと握った。



……ああ、オレはなにを拗ねていたんだろう。



アルデがアルミンと仲良くなって、どこか遠くなってしまったような、そんな気がした。

いつもオレの後ろをついてきて、オレの側にいて、隣で笑っていた彼女がそこにいないのが、

きっと寂しかったんだ。



『お日様きれいだねー!』
「うん…燃えてるみたいな色だ…。」



アルデを真ん中にして、三人で手を繋いで帰る。

手から伝わる優しい温もりを感じたら、
なんだかあったかい気分になって。



「なあ、アルデ、アルミン。」
『ん?』
「なに?エレン。」

「……オレら、さ…」



ずっとこうして、笑ってられるかな?
その言葉を飲み込んだ。


「…いや、なんでもねぇ!」
「え…気になるじゃないか…!」
『うん、気になる!』


気になると言う二人を見て笑う。



だってそんな質問、しなくたってさ…

なんだかずっとこうして並んで笑っていられるような気がするから。




夕陽色の中、道に伸びた三つの影が手を繋いで、仲良く並んでいた。






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