「 始まりの音 」









「アルデ、」
「助けて!!」
「アルデちゃん、」
「…助けて」
「助けて」

「助けて」


「アルデ」







「 た す け て 」










『っ、!!』


意識を、閉じていた目を抉じ開けるように開いて戻す。そこは、見慣れたいつもの部屋。ひとつ息を吐いて、唇を噛み締める。

また、この夢……。



「……大丈夫か?」
『、兵長…』


隣で眠っていたリヴァイ兵長が目を覚まして、私の髪を優しく撫でる。


『すいません、また起こしちゃいましたね…』
「そんなのはどうだっていい。…それよりアルデ、また怖い夢でも見たのか?」


兵長の問いに小さく頷けば、彼は私を抱き締めて頭をそっと撫でた。彼から伝わる温もりにすがるように抱き締め返す。


「……お前は罪悪感なんて感じることは無い…。むしろ皆、お前が居てくれるから力を存分に発揮できている…。」
『…。』
「それでも不安なら、俺の背中だけを見てろ。他のことなんか考えなくていい、ちゃんとお前が迷ったら俺がその手を引いてやる。」
『……はい、』


そう一言返す。私のその返事をどう受け取ったかは分からないけれど、辛い時にこそ何も言わずに、ただ側に居てくれる。彼のそんな不器用な優しさに、今まで何度も救われて来た。


『───、』


静かな部屋で、口をつぐむ。





夜は嫌い。


星は好きだけれど、巨人は活動が鈍るけれど、それでも人々の笑い声や光、太陽さえも飲み込んだその闇で世界が覆われて、


真っ暗で冷たい、


怖いものばかりを私に運んでくるから。




『……、お兄ちゃん…』



小さく呟いて見上げた月は、青白く、冷たい光を帯びて輝いていた。













***












ー…


朝早く。

ひとり、書類の束を手にしながら、差し込む柔らかい光に目を配せた。すぐそこの窓から空を見上げると、穏やかに流れる白い雲に、思わず笑みがこぼれる。…なんて、あたたかいんだろう。




『今日も、平和な一日になりますように…。』



″あの日″を思い出して、そんな願いを太陽に託す。





───あれから、もう4年半も経った。

私は15歳になり、周りの環境も変わった。…13歳まで訓練兵として過ごし首席で卒業。今は調査兵団の一員として、時には医療班や技術班にも加わり、やや忙しい日々を送っていた。


『兵長!』


その背中に呼び掛ければ、彼は足を止め振り返る。光を受けて輝くその艶やかな黒髪に、綺麗な蒼い瞳に、ついみとれた。


「…大量の書類を一度に運ぶなと言った筈だが?」
『す、すみません…』
「まあ、お前が怪我しなければいい。」


そっと私の頭を撫でて、柔らかく笑む。
なんだか照れ臭くて笑えば、兵長は半分書類を持ってくれた。


「お前は危なっかしいから、無理するな。」
『はい、気を付けます。』


前を歩く彼の背中を見つめる。
……いつも必ず前に居て、困った時は口に出さなくても理解してくれる。


『あの、兵長。』
「なんだ。」


そんな彼のことを、私は支えることが出来ているのだろうか。



『いつも…ありがとうございます。』



少しでもいい。

彼の背負っているものを軽くしてあげられるのならば、私はなんでもしたい。


「どうした、急に。」
『いえ…なんとなく。……ただ、』
「…?」

『兵長は、太陽みたいだなって。』


兵長からしたら、私は頼りない妹みたいなものなのかもしれない。でも、それでも、私にたくさんのことを教えてくれたこの人の手助けがしたい。


「……馬鹿言え。…俺にとっては、お前が太陽だ。」
『…え?』
「……なんでもねぇよ、」


少し足が速まる兵長。
そんな彼の背中を追うように走った。


「礼を言うのはこっちだ。」
『?』

「いつもお前がここに居て待っていてくれるから、俺は絶対に生きて帰ろうって思える。お前におかえりって言って笑ってほしくて、みんな帰ってくるんだ。」


兵長の口調が、とても柔らかくなる。
穏やかなその声音に、胸が僅かに締め付けられた。


「だからアルデ、お前だけは、必ずここに居てくれ。」
『───はい。』


微笑んでそう返せば、彼の足が止まる。
……どうやらもうエルヴィン団長の部屋に着いたようだ。


コンコン、


そうノックされた音が、何かの始まりを告げる合図に聞こえたのだった。






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