「 家族が増えた日 」









『ミカサちゃん?』

「ああ、そうだ。お前たちと同い年の女の子だ。
このあたりは子供が居ないからな、仲良くするんだぞ。」
『はーい!』
「うん…そいつの出方次第だけど…。」


オレがそう言うと、父さんは困ったように何か言ってた。オレはその父さんの言葉よりも、ずっと開かないドアを不安げに凝視しているアルデのほうが気になっていた。


「アルデ、どうした?」
『……なんか、そのドアの奥……』


怖い、とオレの手をやんわりと握った。……確かに人の居る気配がない。


「留守かな?
アッカーマンさん…イェーガーです。


ごめんください。」


重々しく音を立てて開かれたドアのその先には、普通の家庭なんてものは存在しなくて。


『──、ぁ……』


ただそこに広がる血溜まりと、横たわり目を開いたまま動かなくなっている二人の男女に体が動かなくなった。


「近くにミカサ…女の子がいないか見てきてくれ。」
「……わかった。行こう、アルデ。」
『……、』


そっと握ったアルデの手は、震えていた。ちらりとその表情をみると、彼女は何かを必死に考えているようだった。それが一体何なのかは、わからない。ただなんとなく、とても大切なことのような気がした。


「駄目だ…二人とも死亡してから時間が経っている…。エレン、アルデ……近くにミカサはいたか?」
「いなかった。」
「そうか……父さんは憲兵団を呼んで捜索を要請する。お前たちは麓で待ってるんだ。」
『……。』
「!……分かったか二人とも?」


父さんの声が聞こえた気がしたけど、オレはただ黙っていた。

……父さんの背中が遠くなった瞬間、オレはアルデの手を引いて、森の奥へと走り出した。














***












ー…



ガチャ



『ごめんください…』


扉を開けると、そこには横たわる女の子がいた。大人の男の人も二人居る。

あれが、きっとミカサちゃん…。

そう思っていると、男の人が二人で顔を見合わせてニヤリと笑った。……なんで、なのかな?


「お嬢ちゃん、どうしたの?」
『あの…森で迷って……小屋が、見えたから……』
「へぇ、そうなんだぁ…」


男の人の手が私の肩を掴んで、舐めるような視線を這わせてくる。背中がすうっと寒くなった。


「寒いだろ?さ、中に入って。これからはおじさんたちが側にいてあげるから、心配しなくても大丈夫だよ。」


怖い、

そう無意識に一歩後ずさった瞬間、手を強く掴んで後ろで組まされる。床に押し付けられた体の痛みを感じながら上を見上げると、もう一人の男の人の手には縄があった。


『っ、放して…!!』
「さて、お前はどのくらいで売れるだろうな?」
『…!?』


売るって……まさか、
この人たち、ミカサちゃんもその目的で……!?


『やめて…私もこの子も、モノじゃない…!!』
「へへ、少々反抗的だが、こんだけ上等なやつってのはなかなか居ねぇしな…。こいつも売れりゃあだいぶ俺らの懐も──、」


掴まれていたその手の力が、ふっと弱まった。


「──その汚ぇ手で、アルデに触んじゃねぇ…!!」
『お兄ちゃん…!!』
「悪ぃ、もっと早く来てやれなくて…!!怪我とかねぇか?」


倒れた男を見ながら、お兄ちゃんが言う。もともと私が時間稼ぎをして、その間にお兄ちゃんが刃物を探して男たちをやっつけるって話だった。ここまでやるとは聞いてなかったけれど…。


「うあああああっ!!」


もう一人の男も、お兄ちゃんに心臓を一突きにされて死んでしまった。正直、殺すとは思っていなかったせいか血を見ると鳥肌が立つ。


『もう息、してない…』


二人とももう、既に息をしていなかった。…さすが医者の息子、急所を把握してる…。


「こうなって当然だ…。あ、お前、ミカサだろ?オレはエレン。こっちは妹のアルデ。医者のイェーガー先生の息子で、父さんとは前に会ったことがあるハズだ。

診療の付き添いでお前の家に行ったんだ…そしたら──」

『……ミカサちゃん、どうしたの?』


何かを思い出した様子のミカサちゃんに聞けば、彼女は言った。


「……三人、いたハズ。」

「え?」



ギシ、




後ろから音が聞こえて、振り返る。するとそこには男の人が立っていて、お兄ちゃんが素早くナイフを手に取ろうとした瞬間、お兄ちゃんのお腹に鋭い蹴りが入った。

そのお兄ちゃんの体を受け止めようと咄嗟に抱き締めた私も、その先の部屋の隅まで飛ばされた。後頭部を壁に強く打ち、意識が遠退いた。





「──戦え!!

────戦わなければ勝てない…!!」




朦朧とする意識の中、
そんな言葉が聞こえた気がした。










***










「アルデ、アルデ。」
『ん…』
「よかった…。痛くはないか?」
『大丈夫……』


お父さんに抱き締められ、やんわりと笑って返す。辺りはすっかり暗くなって、空気も冷えきっていた。


『……ミカサちゃん、は…』
「私は、ここ…。」
『…よかった、無事で……』


笑うと、ミカサちゃんは私の手を握ってありがとうと言った。その手は、とても冷たかった。


「エレンにも言ったが、何故麓で待っていなかった?」

『ごめんなさい…でも、
早く、助けてあげたかったの……』


やれやれというように、ため息をついて、お父さんが困ったように言った。


「……答えまで一緒とは、本当に兄妹らしい兄妹だな。」
『そうなの?』
「ああ、オレも同じこと言った。」


お兄ちゃんが私の頭を撫でていると、その光景を見ていたミカサちゃんが虚ろな瞳で、か弱い声で言った。


「イェーガー先生…私は、
ここから…どこに向かって帰ればいいの?」
「……、」
「……寒い、私にはもう、帰る所がない…。」


すると、お兄ちゃんが巻いていたマフラーを首から取って、ミカサちゃんの首に巻いてあげていた。私も手袋を外してミカサちゃんの手に着ける。


「やるよ、それ。」
『手袋もあげる!あったかい?』
「……あったかい、」


少し涙声で、ミカサちゃんがそうぽつりと言葉を溢す。


「ミカサ、私たちの家で一緒に暮らそう。辛いことがたくさんあった…君には十分な休息が必要だ…」
「……。」
『ほら、早く帰ろう!』
「……アルデもそう言ってるし、帰ろうぜ。…オレ達の家に。」


そう言うと、ミカサちゃんは涙を流しながら頷いた。



844年の秋、大好きな家族が増えた。




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