幸福への翼 | ナノ


▽ アイスクリーム



「なあ、ロシェリーよ…」
『はい、なんですか?』


とある夏の日。
部屋で勉強をしていると、兵長が話しかけてきた。やっぱり一人じゃ暇かな?なんて思いつつも返事をすると、兵長は凄く言いづらそうに私に言った。


「その……」
『ん?』
「あ、アイスクリームとやらを…作ってほしいんだが…」


ああ、やっぱり。
昨日、物珍しそうにリヴァイさんが見ていたテレビに映ったのは、料理番組。そこでやっていたアイスクリームなるものにリヴァイさんは釘付けだった。なんとなく近いうちに作らされるかもと思い材料などを買っておいて正解だったようだ。


「勉強の邪魔をして悪いな…暇な時でいい…。」


親に怒られるのではとひやひやしている子供のような素振りに、つい可愛らしくて笑ってしまった。


「……なに笑ってやがる…」
『ご、ごめんなさい……だって子供みたいで可愛くて…!』


笑いをなんとか堪えながら話すと、リヴァイさんは顔を少し赤くして、ふい、と顔を逸らしてしまった。


『ふふ、丁度休憩したいと思っていたので大丈夫です。じゃあ今から作りますね。』


机から離れキッチンへ向かうと、リヴァイさんは気になるようで、私の後をついてきた。


『さて、バニラでいいですか?』
「ばにら…?」


おお、そうだった。
リヴァイさんはこの世界のことをまだ全然知らないんだった。とりあえず、冷蔵庫に苺もあるし、バニラとイチゴの二種類作っておこう。


『甘くて冷たくておいしいんですよ。』


私がそう言いながら材料を量ったり器具を出したりしている様子をまじまじと見つめるリヴァイさん。人は無知になるとこんなにも変化するものなのか。


「……俺も手伝う。」


すくっと立ち上がりそう言った。
そんなリヴァイさんに笑いかけ、エプロンを渡す。黒だし無地だし……うん、かっこいい。


『リヴァイさんヤヴァイです。』
「……なにがだ。」
『めちゃめちゃかっこいいです。』


……なんだかこの間もこんな会話をしたような気がした。けど、まあいっか。


『よし、じゃあまず材料を混ぜましょう。生クリーム、牛乳、グラニュー糖、それから卵黄。』
「全部入れていいのか?」
『はい、全部量ってあります。ムラがないようにしっかり混ぜてください。』


そう言うと、わかったと素直に材料を丁寧に混ぜていくリヴァイさん。こんな年下の小娘に指示されるなんて嫌ではないんだろうか。いや、嫌に決まっている。私だってあまりいい気はしないし、指図されるのは誰だって好きじゃないはずだ。


「混ぜ終わったぞ……、ロシェリー。」
『……あ、すいませんぼーっとしてて。』
「混ぜ終わったら、次は?」
『えっと、二種類作るので、それをこのボウルに半分ずつ分けてください。』


片方にはバニラエッセンスを加えて混ぜる。
もう片方はイチゴを刻んだものと一緒にミキサーにかけ、混ざったものと小さめに切った苺の果肉をスプーンで混ぜていく。


『さあ、リヴァイさん。ここからは体力が必要になりますよ。』


そう言って、アイスクリームメーカーを取り出す。昔買ったやつだけど、固まるのも結構早いしこれならリヴァイさんも飽きずにやってくれるかな?そう思い彼にやってもらうと、彼は出来上がってくるアイスクリームに釘付けになりながら作業してくれた。









* * *







ー…


『いただきます!』
「……いただきます。」


二人でほぼ同時に口に入れたアイスは、冷たくて甘くて、とても美味しかった。生クリーム入れたのがよかったなあ、結構いい味。初めてのものにやや驚いている様子のリヴァイさんに、おいしいですかと問えば、こくりと一つ頷いた。


『また、今度作りましょう。』
「ああ、そうだな…。」


薄く笑ってアイスクリームを口に運ぶリヴァイさんが可愛くて、つい目の前に居る彼に手を伸ばし頭を撫でてしまった。


「……オイ、ロシェリー。」
『あ、ごめんなさい。』


少し不機嫌そうな声が聞こえたので、ぱっと手を離す。だが声から受ける様子とは違ったようで、少しだけ視線を逸らして恥ずかしそうにしていた。


『……リヴァイさんて可愛い人ですね。』
「!?」


アイスクリームは夏の暑さを和らげ、
私の一人きりだったはずの夏休みに色を灯した。


冷たくて甘い、アイスクリーム。

彼は気に入ってくれたようなので、
また作ってあげようと思ったロシェリーだった。




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