幸福への翼 | ナノ


▽ 合鍵と青い空



ロシェリーは高校生というもので、今は夏期休業中らしい。そんな彼女は休業中だというのに 、朝から「用事がある」と家を出た。昼には帰ってくるそうだが、一体どんな用事だろうか。


「……。」


クーラーとやらが効いた涼しい部屋で寝転がる。綺麗に磨かれている透明なガラス窓越しに見える空はとても青く、ついこの間まではあの空を立体起動装置を使って飛んでいたものだとしみじみ思う。つい5日前のことなのだが、なんだか遠い記憶のように感じてしまう。


あれからあいつらはどうなった?

ちゃんと一人残らず帰れたのか?


今も、巨人と戦っているのか…?



「……クソッ…」


なんだか胸の辺りがもやもやして、部屋にある棚の引出しに丁寧に入れてくれていた立体起動装置にそっと触れる。ひんやりとしたつめたい感触が手に伝わってきて、胸が痛んだ。


「……?」


そういえば服は…と思い、その上の引き出しを開けてみる。すると目に飛び込んできたのは、自分があの時着ていた調査兵団の制服で。綺麗に畳まれたそれは、きちんと洗濯をしてくれていたようだ。血は綺麗に取れているし、洗剤のいい香りがする。


「……ッ、」


……今、どうしてるんだ…。
もし壁外調査なんてあったら、俺が帰れた時には居ないヤツがいるかもしれない…。…こんな気持ちは、初めてだろうと思った。


不安、心配、恐怖。


それらの感情が俺を包み込んでしまうような感覚さえもしてしまうほど、俺はきっと、俺が思っている以上にあいつらのことが、大切なんだろう。


「……せめて、死ぬんじゃねえぞ…」


ゆっくりと流れる雲を見上げ、制服をぎゅっと握り締めながらそっと呟いた。



ー…


ガチャ、


『兵長、ただいまです!』
「ああ、おかえり。」


自分で言ってふと疑問に思う。
″おかえり″なんて…あいつらには、言ってやったことがあっただろうか。いや、無い。まあ一緒に帰ってくるんだから当たり前か。……本当にどうしてなんだろうか、こいつといるとどんどん色んなものが見えてくる。


『兵長。はい、これ。』


そっと手のひらに乗せられたものは、とてもひんやりとしていた。


「……?」

『鍵です。』


にこっと柔らかく笑って、そう言う。
どうやらわざわざ合鍵を作ってくれたらしい。


「……合鍵、か。」
『はい。もし出かける機会があるなら、これ使ってください!』


昨日頼んできたんです、と言う彼女。その店主とは仲がいいらしく、「明日までに作って!!!」と無茶なお願いをしたらしいが、本当に一日で作ってくれたようだ。店主よ、悪いことをしたな…。


『これ、綺麗でしょう?』


ロシェリーが指差すのは、鍵に取り付けられたキーホルダー。透き通る青と白の翼。それを見て俺が目を見開けば、彼女はにこりと笑う。


『兵長がまた、みんなを護りに戻れるようにっていうお願いを込めてみました。』


えへへ、と照れくさそうに笑うロシェリー。俺はふと、思ってしまった。あっちの世界にも、ロシェリーのような…みんなを笑顔にできるような、そんな存在が居てくれたら。俺たちはもう少し、明るく変わった調査兵団になっていたんだろうか。


『……リヴァイ兵長?』
「、ああ…すまない。」


俺の顔を覗き込んで目を瞬かせる。……もし戻るとしたら、それは一体どういう時なのか。検討もつかねえが、どうせ今日明日とは行かないだろうな…。


『兵長!』
「その、兵長って呼び方やめろ…」
『ご、ご迷惑でしたか…?』
「いや、違う。今は兵長じゃねえからな…それにお前は俺の部下でもない。だから、リヴァイでいい。」
『で、でもその呼び方は…エルヴィン団長やハンジさんたちのような、高い地位の方しか…』


そうだった、ロシェリーは知ってるんだよな…。まあいい。


「いいから、俺のことはリヴァイと呼べ。」
『は、はい!リヴァイさんっ』


敬語も″さん″もいらないが、仕方ねえか。


『ねえリヴァイさん!立体起動装置見せてください!』
「……。」
『あと、制服も着ていただけたら嬉しいなあ、なんて。』


期待の眼差しが痛い。
俺は一つため息をついて、ロシェリーの小さなお願いとやらを聞いてやることにした。


その後、俺はロシェリーの気がすむまで質問や願いに応えてやったのだった。


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