幸福への翼 | ナノ


▽ 天井から兵長



「鬱陶しい野郎共だ。」


ザシュッ…


とある任務中、
ある男は淡々と吐き捨て、目の前の巨人をいつものように鮮やかな剣捌きで倒していく。


「チッ…どれだけ削がれれば居なくなるんだこのクズ共は…」


いつもの2,3倍の数を相手に苛立っていたときだった。



「うわぁぁああ!」

「、ッ……!!!」



巨人に今にも掴まれそうな叫んだ一人の兵士を守るため、彼はその巨人の肉を削ぐ。そして、そのままアンカーを放ち建物の屋根へ移るはずだった。


「…(!?アンカーが…)」

「ッ、リヴァイ兵長──…!!!」


リヴァイと呼ばれた男が地に叩きつけられる寸前、辺りは目映いほどの光に満ちた。







* * *








ー…


「じゃあねロシェリー!」
「また明日ねー!」
『うん、ばいばい!』


笑顔で手を振り、友人たちを見送る。
自分も一人夕日色に染まる学校を出て、とある場所へと歩みを進める。


『あった、書店。』


ドアが開くと同時に、冷たい空気が私の身体を包む。暑い夏にはお店に入るのが一番だとしみじみと思った。


『お、新刊出てる』


そっと手に取り笑めば、その本を持ってレジへと向かう。支払いを終えた後、私は紙袋に入れられたその本を鞄にしまいながら書店を出た。


『うー、あっつ…』


タオルで汗を拭いながら家路を歩く。街灯がちらほらつきはじめて、空もだんだんと暗くなっていった。


ー…


『ただいまー。』


パチンと部屋の電気を付け、誰も居ない部屋に一人帰宅を告げる。


『ふー、』


制服を脱ぎソファーへ横たわる。
ゆっくりと瞼を閉じ微睡む私の意識は、ある音によってすぐに戻された。



──────ガッシャーン!!!


『!?』


私の部屋のすぐ前で、それは響いた。
ここはマンションの15階。もし強盗が入ろうものなら逃げ場はない。

……どうしよう、こわいな…。


『……っ、』


ソファーから飛び起き、そーっと忍び足で玄関まで行く。恐る恐る覗き穴で外を確認。だがしかし、そこにはなにも映っていなかった。


『……えい、』


ガチャ、


ドアを薄く、2センチくらい開ける。
再び覗いてもそこにはやはり誰も居なくて、よかったと胸を撫で下ろし開けようとした、その時。


トン…


『ん?』


ドアがきちんと開かない。
何かにつっかかっているようだ。


『もう、ちゃんと外が見れな……ッッ!!!』


私は悲鳴にならない悲鳴をあげた、つもりだったがやはり声は出ていない。だってそこに横たわっているのは、紛れもない″人″。しかも服は血が着いているし、意識も無さそうだ。


『ど、どうしよう……』


残念ながらこのマンションの15階の私以外の住人はみんな大人で、帰るのが遅い。助けを求めるにもどうしたらよいのか。


『あ、あの…大丈夫ですかー……』


呼び掛けてみるが、反応がない。
よく見ると、血は着いているものの彼が怪我をしたわけではなさそうだ。


『……殺人犯、とか?』


一瞬顔が真っ青になった気がした。
しかし、このままという訳にもいかない。何かこの人の手がかりになるものは……ん?


『これ、って……″自由の翼″…?』


緑色のケープを纏ったその背中。そこに描かれているのは紛れもない、先程買ってきた漫画に出てくる調査兵団の証、自由の翼の勲章だった。
コスプレ、かなにかかな……?最近すごい人気だし……あれ、でもこの人の顔…。


『リヴァイ、兵長…?』


その顔立ちは、化粧なんかしていないしコスプレっぽくない。凛としていて、でもどこか幼い感じ。まるでリヴァイ兵長みたい。そっとその美しい黒髪を撫でる。さらりと揺れる短い真っ直ぐな髪。私の髪とは正反対だ。私の髪はプラチナブロンドってやつらしく、毛先のくるんとしたふわふわの髪。これはこれで気に入っているけれど、ストレートが羨ましく思えるときもたくさんある。


『おーい、リヴァイ兵長ー…?』


リヴァイ兵長と別人だとは思っていても、今は名前が分からないのだからそう呼び掛けるしかない。小声でそう呼び掛ければ、彼はゆっくりと瞼を開けた。


『あ、お…おはようございます…!』
「……お前、誰だ?」
『ええと、ロシェリー・トルドです。』
「……そうか…。」


ゆっくりと身体を起こして、私と周りの景色を交互に見る兵長と似てる人。……でも、もしかしてこれって逆トリップってやつだったりする、のかな?


『あの、』
「?なんだ。」
『……あの、リヴァイ兵長、ですか?』
「……そうだが。」


あ、そうなんだ…。
って、


『ほ、ほんとに!?』
「……だから、そうだと──ッ!?」
『リヴァイ兵長本物!本物だあ!!』


抱き着かずにはいられない。
夢のまた夢に見た憧れのリヴァイ兵長なんだもん。


「、は…離れろ…!!!」


珍しく取り乱した様子のリヴァイ兵長。リヴァイ兵長の腰に腕を回したままどうしたんだろうと見上げると、リヴァイ兵長は顔を逸らした。


『兵長!どこから来たんですか!?』
「あ?いや…俺もよくは覚えてないが…確か、任務の途中だったような…」
『……じゃあ、寝る場所とかは?』


問題発見。


「……、」
『……うち、来ます?』

「…………すまない、頼む。」


周りを見て自分の居た場所ではないと理解しているようで、黙りこくる兵長に提案するとおとなしくうちに来ることに賛成した。



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