▽ 心に決めたのは
「おーいリヴァイー!」
「なんだ…クソメガネ。」
「暇そうにしてるリヴァイにいいもの持ってきたよー!見たい?ねぇ見たい!?」
「うるせぇ、さっさと寄越せ。」
「届いたらね。」
ハンジがなにやら紙の束を持ってきた。手を伸ばして取ろうとすると、こいつはその書類を高くまで上げて、届いたらなんて言い出しやがった。……殺されてぇのかこいつ。
「オイ…」
「ん?やっぱり届かない?」
「削ぐぞ…」
「分かったからそれしまって!」
俺が超硬化スチールの刃をハンジに向けると、慌てた様子で書類を渡した。
「……これは、」
「うん。新兵についての情報!今期は期待できそうな子が結構居てねー」
こいつの話を聞き流しながら、資料を捲っていく。
「ほう…今期の出来は悪くないな。」
「でしょ?あ、そうそう、新しくこの間入ってきた子の資料まだ届いてないんだ。家の事情で入団遅れたみたいだけどすごく優秀で…」
「家の事情?」
どんな事情だ、と思いながら、なんかすっごい可愛い子なんだよね!と嬉々とした表情で話すこいつに眉間の皺が濃くなる。
「じゃあ、今度その子の資料も気が向いたら持ってくるよ。」
「ああ、わかった。」
ドアが閉まると、ひとつ溜め息をついて、机に資料を置く。……正直暇な訳ではない。ただあいつの、ロシェリーのことが頭から離れなくて、仕事が手につかないだけだ。
「……、ロシェリー…」
銀色の左翼を手に取り、そっと呟く。
……なあ、お前は今どうしてる?
どこにいて、どんな表情をしてる?
…ロシェリー、
「お前に、会いたい…」
呟いた言葉は、一人きりの部屋に溶けて消える。柔らかな日差しが窓から射し込む、暖かい日だった。
ー…
『や、待ってアニ…ッ』
「駄目。待ってやんない。」
『で、でも…っ…ぅあ…!』
アニと格闘していると、身体を固められてしまった。い、痛い…痛い……!!骨がボキボキいってる…!
『う…、音がやばい…よ…ッ』
「頑張りなよ、自分でなんとか。」
『ッ……言われなくたって…、』
「っ!」
『──そうするよ!』
するりとアニの腕を抜けて、地面に着地する。…やっぱりアニすごいなぁ…肩に力入んないや…。
「ロシェリー。」
『?あ、ミカサ!どうしたの?』
「……私と、やろう。」
アニが薄く笑って、ミカサに言う。
「仕方ないね、いいよ。」
「ありがとう。……行こう、」
『わ、速いミカサ!アニ、いろいろ教えてくれてありがとう!』
また今度教えてねー!とアニに手を振ると、彼女も小さく手を振り返してくれた。私の手を引いて前を歩くミカサの首もとに巻かれたマフラーの赤が、青い空と正反対でとても綺麗に見た。
『ミカサ、そのマフラー綺麗な色だね!』
「ありがとう、これはエレンから貰った…。」
『そっか、エレンが…』
贈り物、ってことは……エレンはミカサのことが好き、なのかな?幼馴染みなんだしそのくらい普通といえば普通なんだけれど、すごくわくわくする…!
『応援してあげなきゃ…』
「ロシェリー?今なんて…」
『えへへ、なんでもない!』
笑ってミカサの隣に並んで歩けば、彼女は嬉しそうに笑ってくれた。……なんだか、とっても平和な気がする。
『──……』
青空を緩やかに飛ぶ白い鳥たちを見ながら、ぼんやりと考える。
ああ、こんな穏やかな日が続けばいいのに…。
「ロシェリー、ぼーっとして転ばないように…」
『うん、大丈夫…』
いけない…
私はもう、兵士なんだ。
戦うことを、考えなくては。
そんなことを考えながら歩く私の胸元に、キラリと光る右翼。アニと戦っていた時、どうやら服の中から出てきてしまったらしい。教官に見つかったら怒られちゃうかな?
『……リヴァイさん、』
私は貴方に追い付くため、
人類を守るため、
貴方を隣で、護るため、
今日も訓練に励みます──…
「っ、ねぇロシェリー…貴女はどこの兵団に入りたいの?」
『え…?』
ミカサと応戦しながら、そんな質問をされる。
そんなの、決まってる。
私が今日心に強く決めたのは、
『私は、調査兵団に入る。』
笑って、そう言った。
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