幸福への翼 | ナノ


▽ 初めての異世界



「お前ら、今日はお前らの新しい仲間を紹介しよう。家庭の事情で入団が遅れてしまったが、たったの数日だ。無能で学習が遅いお前らとさほど変わりないだろう。お前らと同じ104期生だ。」


昨日、俺たちがこの世界へ来たのは夜だった。どういうわけか、俺があっちの世界に行った時から少ししか経っていないらしい。俺は教官に、家庭の事情で入団が遅れた知り合いだと言って伝えておいた。制服を身に付け、今ロシェリーは皆の前に立っている。


「トルド、手短に自己紹介を。」
『はい。……ロシェリー・トルドと申します。諸事情で入団が遅れてしまいましたが、これからよろしくお願い致します。』


頭を下げてから、ゆっくりと顔を上げて柔らかく微笑む。くそ、皆見てやがる…そりゃあ、あんな可愛くて綺麗なら誰でも見るけどさ…。


「姿勢制御訓練に取りかかれ。…トルド、何か分からんことがあれば周りに聞け。それでも分からん場合は俺に聞け。いいな。」
『はい!』


皆が準備に取りかかるために解散する。そんな中ロシェリーの元へ走る俺を追い抜いて行ったのは、なんとミカサだった。


「ちょ、おいミカサ!?」
「──ッロシェリー!!」
『?あ、ミカサちゃん!』


ぱあっと表情を華やがせて可愛らしく笑うロシェリー。そんな初対面で名前呼んだりしたら怪しまれるって…!そう内心ひやひやしていた俺を差し置いて、ミカサはロシェリーをぎゅっと抱き締めた。


『わっ…』
「よかった…ロシェリー、また貴女と会えて、本当によかった…!!」
『?ミカサちゃ……』
「ミカサでいい。私も貴女をロシェリーと呼ぶ。」
『……み、ミカサ…』


そう少しだけ恥ずかしそうに呼ぶロシェリーを、ミカサは力一杯抱き締める。その瞳には、うっすらと涙が浮かんでいるようだった。ど、どうしちまったんだミカサは…!?


「エレン!あれは…」
「ああ、アルミン…。俺にも何がなんだかさっぱりだ…」
「ミカサがあんな風に誰かに笑顔を向けるのは珍しいね…。僕たちでさえあんまり見ないのに…。」


隣で目を丸くしているアルミンに、俺はああと頷くしかなかった。ロシェリーがミカサを知っているのは当然だが、ミカサがロシェリーを知っているというのはおかしい。まるで親しい間柄のように話しかけるミカサに、違和感を覚えた。


「貴女のことは、私が守る。」
『…じゃあ、私もミカサのこと守れるように強くなるね!』


訓練頑張らなきゃ、と笑うロシェリーに、ミカサは今までに見たことのないくらい優しい笑顔を向けた。一体どうなってんだ…。はあ、とため息をつくと同時に教官の怒鳴り声が聞こえたので、一旦訓練に集中することにしたのだった。




ー…



「す、すげぇ…」


ミカサに並んでロープにぶら下がり、姿勢制御訓練をするロシェリー。彼女もまたブレがなく、ミカサと小声で雑談を交えながら綺麗に体勢を保っていた。本当になんでも出来るんだな…。


「次、エレン・イェーガー。」
「あ、はっはい…!」


よしっ俺だって─…!!


「──…」


くるんと体が反転し、逆さになったまま上体を起こそうとしても起きることができない。


「何をやってるエレン・イェーガー!!上体を起こせ!!」


え…?

なんだこれ……
こんなの…どうやって……

ウソ……だろ?
こんなはずじゃ……


青ざめる俺を見つめ、ロシェリーが小さく″がんばれ″と困ったように口を動かしたのだった。



ー…


「くそ…俺はどうしたら…。なあ…ロシェリー、なんかコツとかねぇか?」
『…うーん、なんだろうなあ、私は身体の骨を真っ直ぐにするイメージでやってたけど…』


分かりづらくてごめんね、と申し訳なさそうに謝るロシェリーにお礼を言って、パンを口に入れる。俺ら三人とロシェリーはすっかり仲良くなり、今は四人で食事をしていた。


「ロシェリーは運動神経がいいから、きっとほとんど感覚。」
『それはミカサのことだと思うよ?』
「でも、ロシェリーもすごいよ。皆感心してた。」


アルミンがそう言って笑うと、ロシェリーはそう?とはにかんだ。そういえば俺らの会話がさっきからやけに響くが…皆何して──…


「!?」


皆、こっち見てる─…?
なんだ?ずっと黙って──


「な、なあ、ロシェリー!」
『あ、なに?』
「歳いくつ?」
「出身は?」
「綺麗な髪だね!」
「運動神経すごいな!何かやってたのか?」
『えっと…』


一人が質問し出すと、周りの奴等も一気に質問をし始めた。少し困った様子で辺りを見るロシェリーを見て、ミカサは眉間に皺を寄せた。


「貴方たち、ロシェリーが困ってる。一人ずつ─…」

『歳は17歳だよ。出身は、申し訳ないけど…私は養子だから分からないの。この髪は気に入ってはいるけれど、少しだけ動くには邪魔かな。運動は、いろいろやってたよ!』
「「「「へぇ〜!!!」」」」


みんなの質問に嫌な顔ひとつせず、にこやかに返す。「ありがとね」とミカサの頭を優しく撫でる彼女。でも今、ロシェリー養子って言ったか…?


「っロ─…


カン カン カン カン──…


『ん?なあにエレン。』
「…いや、なんでもねぇ。」


食事の時間が終了する鐘が鳴らされ、話したいことはたくさんあるが、自分たちの宿舎に行く他ないので、俺は渋々ロシェリーと別れた。



ー…


「なあ、エレン!」
「んー?」
「お前あの人と知り合いなのか?」
「まぁな…」
「どこで知り合ったんだ!?開拓地とか?」
「いや、俺が探し物をしていたときだな。」
「もっといろいろ教えてくれよ!」
「俺は姿勢制御のやり方を教わりたいんだが…」


まあいいや、と俺は、その世界について話はじめた。ロシェリーも聞かれたら隠すことなく話していいと言っていたからだ。
ゆっくり、確かめていくように。皆、消灯時間になってからも、目を輝かせて聞いていた。平和で幸せだと感じた、俺たちが欲しがっているような世界のことを──…



ー…


「なあ、あんた養子って言ってたな?」
『うん、お医者さんの家。』
「地の繋がった両親とかは?」
「ちょっとユミル、詮索しすぎ!!ごめんなさいロシェリーさん…悪気はないの…。」
『大丈夫大丈夫!…血縁関係の人は一人も知らない。ただ、子供の居ないお医者さんの家に養子として迎えられただけ。まあ、そんなのももう関係ないけどね。』


そう言って笑うと、ユミルは私を見て首を傾げた。


「なあ、ロシェリーはどこの人だ?少なくとも私が知ってるとこじゃなさそうだ。」
『、なんでそう思うの?』
「……首に掛かってるそれ。私はそんな綺麗なもの見たこともない。」


ユミルが指差すのは、私の胸元で光る金の右翼だった。そっか、珍しいよね…。


『……何も言わないで、聞いてくれる?信じなくてもいい。でも、私は──…』


私のことを、そっと話していく。
皆目を見開いたり輝かせたり、さまざまな表情で私の話を聞いていた。でも、馬鹿にするような人や信じられないと言う人は、不思議とそこには居なかった。







* * *








ー…


『ふぁ、眠い…』


目を擦りながら支度を終え、教官を皆で待つ。どうしたんだろう、まだ教官が来るまでには時間があるのに、みんな集まっている。怪訝そうに私が首を傾げると、皆顔を合わせて頷き合い、私を囲むようにして集まってきた。


『え、皆…どうしたの?』
「あのよ、エレンから話は聞いたぜ?」
『あ……うん。』
「初めは信じられねぇと思ったけど、話があまりにもリアルだったもんだから、皆それに納得したんだ。」
「もっといろいろ教えてよ!その世界のこと!!」
『……!』


受け入れてもらえると思っていなかった。

なんとなく皆と話せればよかった。
そう、思っていたのに。



『……変だと思わないの?住んでいた世界が違うんだよ?…気持ち、悪いでしょ?』
「そんなことねぇよ。…だってあんたは、今ここに居るじゃねぇか。」


涙ぐむ私の頭を優しく撫でて、ジャンがニッと笑う。どうやら訓練兵みんなに話は伝わっているようで、みんなが私を見つめていた。


『みんな、ありがとう。こんな私だけど、よければ仲良くしてください。』


そう言って笑うと、辺りはわいわいとしていて。こんな自分はとても幸せだとしみじみと感じるのだった。



104期生と一緒に歩んでいこう。
これからの、この世界での道程を。




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