幸福への翼 | ナノ


▽ 護りたいもの



「うわぁぁ!広い…!!」
『今日はいっぱい遊ぼ!』
「おうっ!」


すごく広いその場所に、俺は思わず声を上げてしまった。ロシェリー曰くウォータースライダーや、波が来る海のようなプール、流れるプールなんかがあるらしい。た、楽しそうだ…!!


「ロシェリー!早く行こうぜ!」
『わ、待ってよエレン!』


ロシェリーの手を握って、ウォータースライダーに向かって走り出す。ロシェリーは全くもう、と言いながらも優しく笑ってくれた。


「次の方ーどうぞー」
『エレン前ね。』
「任せろ!…行くぞ!」
『、わぁぁ!』


長い長いウォータースライダーを通っていく。ロシェリーの体温が直に伝わってきて、なんだか心臓がうるさいくらいに脈打っていた。ドキドキしているうちに視界が明るくなって、水飛沫をあげながら一気に身体が放り出された。冷たさが身体を包み込む。


『ぷはっ…!』
「は、ははは!楽しいなこれ!もっといろいろ乗ろうぜ!」
『えへへ、いいよー!』


そう言って笑う今日のロシェリーは、なんだか凄く大人っぽく見える。普段は二つ結びだが今日はポニーテールだし、とても小柄だけどスタイルは凄くいい。女の人でさえも二度見するくらい綺麗な彼女の隣に並ぶ俺は、周りからどんな風に見られているんだろうか?


『ねえエレン、あれ乗りたい!』
「うわ、すげえ速そうだしぐるぐるしてるな…。でも楽しそうだ、行こう!」
『おー!』


そんなこんなで、俺たちは施設の中を満喫していた。


『私ちょっと飲み物買ってくるね。コーラでいい?』
「おう!」


俺も行こうかと迷ったが、心配そうな顔をしていたのだろうか?『大丈夫!』と宥められてしまった。まあ、ロシェリーはしっかりしてるから大丈夫か…。
そう思ったのが、間違いだったんだ。




ー…




ザワザワ…


「ん、?」


少しの間寝てしまっていたようで、周りの騒がしさでハッと我に返る。やべ、寝ちまった…。そういえばロシェリーは…?


『──離してください!!』
「!!今、のは─…」


…ロシェリーの声だ…!
急いで人混みをかき分けていく。


「すいません!通してください!」


一体何が──…


「!!」
「いいじゃん一人でしょー?」
『やめてください!私…エレンが…』
「俺らとちょーっと遊んでくれればいいだけだからさ…「オイ!」…あ?」

「──その汚ぇ手、さっさと離せよ。」

『…ッエレン…!』

「あぁ?なんだこのガキ。」
「駄目だよ君ーちゃんと言葉遣いには気をつけない…とッ!!」
「!ぐぁッ…」
『エレン!!』


不良たちの蹴りは鋭く俺の腹に入った。……思ったよりキツい。くそ、ニヤニヤしてやがる…腹立つ…!


『…。』
「ほら、行こうか?」
「そーそー。こんな弱いヤツと一緒に居る必要なんかないって!」


そう言ってロシェリーの肩に男が手を触れようとしたとき、辺りにパシンと乾いた音が響いた。


『……触らないで。』
「え?」
『触らないでって、言ったのよ。』
「え、あれ…?」
『初対面だし失礼だと思って敬語使ってたけど、そんな必要もないみたいね。話せば分かると思ったのも間違いだった。
……ごめんねエレン、本当に…私のせいでこんな怪我を…』
「い…いや、いいってこのくらい…」
『ごめんね、ちょっと待ってて?』


俺の手をぎゅっと握って、申し訳なさそうに謝るロシェリー。それより俺はさっきのロシェリーが気になる。凛とした佇まい、穏やかで冷静な話し方、冷たい瞳。すげぇ、格好いい…!!


「女は男の腕のなかで、可愛くしてりゃあいいんだよ?」


ロシェリーの腰に手を回して耳元で笑う男。っ、許せねぇ…!俺が行こうとすると、ロシェリーがふふ、と笑った。


『……あなたたちのその耳は飾りなの?』
「え?」
『触らないでって言わなかったかしら?』


ロシェリーはどこからそんな力が出るのかと思うくらい軽々と、そう言って涼しい顔で男をプールに向かって背負い投げした。大きな水飛沫が上がり、辺りからは歓声が上がった。


「ぶはッッ…!!」
「お、オイやべぇって!」
『昼間からこんな学生に声かける暇があるのなら、受身の少しでも覚えたら?』


冷たく言ったロシェリーに頭を下げて、不良たちは急いで走り去っていった。


『ふう、』
「す、すげぇ…!」
『え?』
「すげぇよロシェリー!!格好よかった!!」
『あ、ありがとう…』


わいわいと歓声が周りから上がる中、えへへ、と笑う彼女をよく見てみる。華奢だ、本当に。あんな力がどこから出ているのか本当に分からない。すごく細いのに、頼もしい。俺も、あんなふうに強く──…


「ごめん、俺…」
『ううん、ありがとう…本当に、嬉しかった。怪我させちゃってごめんね…。』
「…お前のこと、護ってやりたかったのに。」
『……ありがとう、でも護られるだけは嫌。私も、大切な人を護りたいの。だからそんな顔しないでエレン。私だって、貴方のことを護りたいんだから。』


ね?と微笑むロシェリー。
後に帰り道で話を聞いたところ、ロシェリーは幼い頃から色々なものをやってきたらしい。剣道、柔道、合気道に陸上、新体操。身体を動かすことには慣れているが、普段ああいうことがあってもなるべく穏やかに解決したいので、使うことは滅多にないんだと話していた。



ー…



『ごめんねエレン。せっかくのプールだったのに…。』
「いや、気にするなって!楽しかったし、ロシェリーの意外なとこ見れたしな!」


俺が笑ってロシェリーの頭を撫でると、ロシェリーは赤らめた頬を膨らませて、恥ずかしそうに俺を見上げた。


『こんな技使える女の子って、やっぱりおかしいのかなあ。』
「そんなことねぇって!すごい格好よかったぜ?」
『……うん、ありがとう…。』


えへへ、と笑う彼女を見つめ、そっと考える。俺は弱い。まだまだ、あんな人間相手だって勝てなかった。


「ロシェリー。」
『ん?』
「俺、強くなるよ。お前のこと、護れるくらい。」
『じゃあ、いろいろ教えてあげるね!』


この笑顔を、護ってあげたい。
できることなら、ずっと。

俺は、強くなることを心に決めた。



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