幸福への翼 | ナノ


▽ 自覚した一目惚れ




『じゃあエレンくん、行こうか。』
「は、はい……!」


あの後、俺はおそらくこの状況はトリップというものなのだと彼女に教えてもらった。この世界はとてつもなく平和で、巨人なんてものは存在しないらしい。
ふんわりと柔らかく微笑むロシェリーさんの隣に並んで歩いていく。俺の身長は156cmくらい、だけど……ロシェリーさんは、150cmくらい…なのか?小さくて、なんかすげぇ可愛い…。


『ん?…エレンくん、なあに?』
「あ、っい、いえ!」


そう?と首傾げるロシェリーさんは、白が本当によく似合う。ミントブルーと白が好きみたいで、よくそういう色の服を着ている。……この世界のはあんまり見慣れない服ばっかりだけど嫌いじゃない。ロシェリーさんの着ている服はどれも綺麗で可愛いと思う。因みに今日のロシェリーさんの服は、白いレースのワンピースにミントブルーの可愛らしいカーディガン。……きっとこの人が着てるから服も可愛く見えるんだろうな…。


『ねえ、エレンくん。』
「?」
『エレンくんはさ、崖から落ちたって言ってたよね?ここに来る前。』
「はい、言いました。」
『……そっか、』


何かを考えながら歩いていく。
怪訝そうに俺がそっと顔を見てみると、その美しい琥珀の瞳は真剣な面持ちで真っ直ぐ前を見据えていた。


『昨日の、話。』
「昨日?」
『うん、当てて見せるって言ってたやつ!誰か分かった?』
「考えたんですけど……知ってる人が多すぎて…。あの、ヒント下さい!」
『ヒントかあ、うーん…調査兵団の人、かな。』
「、調査兵団…!?」
『うん、そう。そのなかでも有名よ?』


分かるかなーと悪戯っぽく笑うロシェリーさんがあまりにも可愛くて、つい頬が熱くなる。どうしちまったんだ俺…!ロシェリーさんのことで頭がいっぱいだ…!!!来たのが誰か知りてぇのに!


『さて、エレンくんのものもいろいろ買わなきゃね。』
「お、俺のですか…?」
『うん、あの人のものは…使ったら怒られそうだから。』


そんなに高いものじゃないしね、と言う彼女。ふと、背中に刺さるように浴びせられる視線たちに気付き、そっと振り返る。するとそこは男だらけで、思わずその眼力に鳥肌が立つ。


『エレンくん?』
「……、っは、はい!」
『大丈夫?顔色悪いよ?』
「だ、大丈夫です…。」


多分、と心で付け足す。
この視線はきっとロシェリーさんの隣に居る俺を妬ましく思っての視線だろうと察した。……この人本当に可愛いもんな…。


『ほら、着いたよ。』
「うわ!でけぇ!!!」


ショッピングモールというらしいこの建物はすごく大きいもので、ついはしゃぐ。ロシェリーさんもでしょ!?と表情を明るくするものだから、つい嬉しくなる。


『行こっエレンくん!』
「わ、ロシェリーさん待ってください…!」


俺の手を引いて、小走りに店を回るロシェリーさん。そんな彼女の表情はとても明るくて、昨日彼女が見せた涙の面影はない。でも、あのときのロシェリーさんの涙を、俺は忘れられなかった。だってあんなに、切なそうに涙を溢すものだから。


「……(調査兵団、か。)」
『ねえ、エレンくんは今訓練兵なの?』
「あ、はい。丁度この間なったばかりで…。」
『そっか、私もなりたいなあ…。訓練兵。』
「え!?だ、駄目ですよ!」
『どうして?』
「だって…俺、ロシェリーさんが傷つくのとか、見たくないです…。」


一瞬きょとんとしてから俺を見上げるが、ロシェリーさんはふんわりと笑ってくれた。


『えへへ、ありがとう。でも、私体力は結構あるし…兵士に、なりたいの。もしそっちに行けたら、だけど。』
「なにか、やってたんですか?」
『うん、陸上とか新体操とか。基本的に動くのは好きだし、成績も悪くない方かな。』


あどけなく笑うロシェリーさん。俺は12歳。ロシェリーさんは17歳だと聞いた。5歳差なんて、そんなに大きなものではないと感じる。


『ねぇ、エレンくん。』
「?」
『もし、帰れる時が来たとしたら、私も連れていってくれないかな?』
「え……、っでも、ここには巨人も壁もない、幸せな世界があるのに…なんで、」
『……私も、あの人を護りたい。そのために、強くなりたいの。』


動機が不純かな?なんて笑うロシェリーさんに、首を横に精一杯振った。


『お願いします。』


そっと俺の手をとって、にこりと笑うロシェリーさん。可憐とか可愛いってこの人のための言葉なのかな?ぼんやりとその綺麗な顔を見つめる。色白な肌とは正反対の明るい瞳が、綺麗だった。


「あの、ロシェリーさん…」
『ん?なあに?』
「いつか俺が、」


大人になったら─…


「い、いえっなんでもないです!」
『そう?……じゃあいろいろ買って、お昼にしよう!』
「はいっ」


俺は自覚した。
これは一目惚れってやつなんだ。
初めて見た昨日の夜から、ロシェリーさんのことが頭から離れなくて、一緒に居ると幸せで、胸がどきどきする。


12歳の夏、
俺の初恋が始まった。



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