幸福への翼 | ナノ


▽ 偽物なんかじゃなくて



『リヴァイさん!』
「……なんだ…」
『これ見てください!』


昨日の夜の出来事を思い出して動揺するのをなんとかバレないようにするので、俺は精一杯だ。あんなことを言われたのは初めてだったし、俺も言ったのは初めてで。

……クソ、俺ばっかり動揺してんのか…。
なんかすげえ腹立つ…。


『おーいリヴァイさん?』
「あ、ああ……悪い。なんだ?」
『これこれ!向日葵の迷路ですって!』
「迷路?」


これまた可愛らしい笑みで言うこいつを見つつ聞き返す。ロシェリーが手にしているのは、広告。この時期限定で向日葵畑を利用した迷路をやっているそうだ。


「迷路か…」
『そう!……毎年行きたいとは思ってたんですけど、行けなくて…。』
「……?友達と行けばいいじゃねえか。」
『もう!ちゃんと広告見てくださいよ!』


ここ!とロシェリーが指差すのは、カップル限定の文字。思わず恥ずかしくなって顔を逸らす。


「……誰か男誘って行けるだろ。」
『そんなことできないですよ!リヴァイさん、お願い!こんなチャンス、きっと二度とないですから……』
「…!」


お願い、と手を合わせるロシェリー。背の関係上こいつが俺を見上げる形になるのは必然なわけだが、そんな彼女の姿も意識してしまえば鼓動を速める理由には十分だった。


『今日だけ、いえ!向日葵の迷路の時だけでいいんです…。恋人のふりを、していただけないでしょうか?』
「……ハア、分かった。」


そう言って頷くと、ロシェリーはぱあっと満面の笑みを浮かべ、ありがとうと抱き着いてきた。……そういえば、会った時もこんなだったな。


『帽子被っていかなきゃなー』


上機嫌でぱたぱたと家を駆け回る彼女は、正直とても可愛い。この間ショッピングモールとやらで必要なものを買いに行った時だって、一体何人の男がこいつを見て振り返り、頬を染めていたことか。……まあ、こいつは気づいてねえんだろうがな。


『ねえリヴァイさん、似合う?』
「……まあまあ、だな。」
『えへへ、ありがとうございます。』


白いピクチャーハットを被るロシェリー。その帽子を飾るリボンは淡いピンク色で、彼女が着ている白いふわふわの膝丈ワンピースと良く合っていた。


『リヴァイさんも支度してくださいねー』
「ああ、今支度する。」


ハンジなんかに急かされたりしようものなら殺気を交えた眼光で睨み付けていたものだが、何故だ?怒る気が全くしねえ。……あいつのふわふわした柔らかい雰囲気のせいか、少し子供っぽい無邪気な感じのせいだろうか。


「……俺も、甘いな…。」


そんなことを呟きながら支度を終え、少しだけヒールのあるサンダルを履き、早くと急かす彼女と並んで家を出た。







* * *







ー…


『わあああ、すごーい!!!』
「……広いな。」


見渡す限り向日葵、という表現が決してオーバーではないくらいの広大な向日葵迷路。……今日は天気も良く、空が青々としているせいか、向日葵の鮮やかな色が綺麗に映える。


「次の方どうぞー」
『リヴァイさん、行きましょう!』
「ああ、……って、こら引っ張るな…!」


どうやらルートは3つあるらしく、時間も置いて次の二人を入れるらしいので当然辺りに人は見当たらない。


『向日葵って大きいですねー!』
「お前が小さいんじゃねえのか。」
『し、失礼な!そんな小さくもないですよ!』


頬を膨らませて俺を睨むロシェリー。……もちろん怖くはないが、悪いと一言詫びた。


『こっちも行き止まりかあ…。』


小走りに道を探す彼女の小さな背中を見つめる。とても華奢で、兵士には向いてなさそうだ。……でも、もし戻るなら…俺はロシェリーみたいな奴と一緒がいい。……俺の我儘だなんてのは分かってる。でも、それでも、諦められる気がしねえんだ。


「……ロシェリー。」
『はい?』


ふわり、振り向いたロシェリーはとても綺麗だった。そんな彼女に、そっと話す。


「お前、昨日の夜の……あれは、本当か?」
『え…』
「……お前が、言っていたこと。」
『……リヴァイさん…もしかして起きて、たんですか……?』


呆然と言う彼女に、悪いことをしたと言えば、ロシェリーは顔を一気に朱に染めて、涙目で言った。


『そんなの、ずるいよ…』
「っ、ロシェリー……」
『……リヴァイさんの、ばか。』


そっと彼女の元へ寄れば、彼女は弱い力で俺の肩を、その小さな拳で叩いた。


「……なあ、聞いてくれ。」
『やだ、聞きたくない…。』
「───ロシェリー!」
『……っ!』


両肩を掴み、彼女の名前を力強く呼ぶ。
ロシェリーの見開かれた瞳からは、今にも涙が零れそうだった。


「……俺は、まだお前とたったの二週間程しか一緒に居ない。それに、こんな気持ちは初めてでどうしたらいいか、よくわかんねえ。」
『り、ばい……さん、?』


俺がこれから何を言おうとしてるのか、こいつにはまだわかってねえんだろうな。でも、伝えなきゃいけねえんだ。いつになるか、分からないんだから。


「でも、お前に対する愛情は、誰にも負けない。愛情と一緒に居た時間は、必ずしも比例するわけじゃないと、俺は思う。」
『……、』
「───好きだ、ロシェリー。お前のことを、俺に護らせてくれ。偽物なんかじゃない、本物の恋人になってほしい。」


瞬間、彼女の頬を透明な雫が伝った。


『リヴァイさん…リヴァイさん……ッ』


何度も俺の名前を呼びながら俺の背中に手を回すロシェリーは、ぼろぼろと涙をこぼしていた。
……さすがに次の奴らが来そうなので、俺に抱きつく彼女を姫抱きにして、道を探しながら歩く。


『ゆめじゃ、ない……?』
「ああ、夢じゃねえよ。」
『リヴァイさん、ちゃんと……ここにいる?』
「ちゃんと、居る。」

『…ッ、』


涙を指で拭いながら、ロシェリーは俺を見上げて言った。


『私、にも…あなたを隣で、護らせてください。』


涙に濡れた笑顔にそっと笑い返し、少し赤くなった瞼に優しく口づけを落とし、抱きしめた。


「……お前のことを、何よりも大切にする。」


これからどれだけの時間を、彼女と過ごせるのだろうか。期限がいつなのかは分からねえが、せめて一緒に居られる時間を、大切にしていこう。



向日葵の中で、そっと心に誓った。


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