「あれ? しのぶ?」 「あたるくん…」 昇降口で靴を履き替えてたら、廊下の端にしのぶが立っていた。 明るい外から来たからか、やけにひんやりとしていて薄暗い。 「何してんだ、こんなとこで」 「あたるくんこそ、どうしたのよ」 「面堂のばかが俺のボールに頭から突っ込んで気絶しやがったから様子見て来いって言われて」 ほんと、女のコなら喜んでするものをなんで俺が男の看病なぞしなきゃいかんのか。 あのくらい避けろ、うすのろ面堂め。 「面堂くんならベッドで眠ってるわよ」 「ぬぁにぃ〜?」 軟弱に気絶しおったと思えば授業をサボって居眠りだと? こりゃあ天誅を下しに行くしかないようだ。 「……って、なんでお前知ってるんだよ」 「わたし、おなか痛くなっちゃってお薬もらいにいったのよ」 「えっおなか痛いの? 俺がお姫様だっこして……うぎゃっ」 最後まで言わないうちに右ストレートを食らって奥歯に血の味が滲む。 「いでで…」 ほんと怪力だよなお前。 いつの間にかさっさと靴箱から靴を出して履き替えようとしているしのぶに、振り向かないままで声をかける。 「大丈夫なのか?」 「……何よ、優しい振りしちゃって」 カタン、背中で靴箱の蓋が閉められる音がする。 「無理すんなよ」 しのぶの動きが一瞬止まる。 「……ばかね」 靴底が砂利を擦る音がして、走り去る足音が遠のいていった。 ――――だって、声をかけたとき、泣いてるように見えたのだ。 馬鹿力だけど人一倍泣き虫なのはよく知っている。 何で泣いてたのかなんて、きっと聞いたって言わないだろうけど。 (……あいつもいろいろあんのかね) とりあえず、今は面堂のばかを叩き起こして連れ戻さねば。 鼻で大きく息をついて、勇み足で保健室へ向かった。 |