「行くよー翔!」
「おう、任せろ!」
昼休み
夏の暑い日射しが降り注ぐ中、木によって出来た木漏れ日の下で私は絵を描き続ける。
聞こえてくる声は同じクラスの来栖君ともう一人………Aクラスの一十木君の声。二人はとても楽しそうにサッカーをしている。
「…………」
描き続ける手を休め、ちらっと彼の方を見る。一十木君はとても良い表情をする。特に来栖君とサッカーをしている時の顔は生き生きしていて眩しく感じることだってある。
「ねぇ、何描いてるの?」
「!!」
前から聞こえてきた声に驚きながらも私は慌ててスケッチブックを閉じる。私の体を覆うくらい大きな影を作る人。それは…
「い、一十木…君」
私の片想いの相手である一十木君、だった。
「あれ、俺の名前知ってるの?違うクラス…だよね?」
「そ、それは…」
あなたのことが好きだから、何て言えるわけないし…どうしよう。
スケッチブックを抱きしめながら言い訳を考えていると一十木君の方から話し始める。
「わかった!翔が教えたんでしょ?君って確かSクラスだよね?前に教室行った時に見かけたことあるし」
「あ、えっと………う、うん」
来栖君には申し訳ないけどここは言い訳として使わせて貰うことにしよう。
一十木君はそのまま私の隣に腰を下ろしてくる。その行動に驚いてしまい、思わず彼から顔を背けてしまう。
「名前何て言うの?」
「え?」
「君の名前」
教えてよ、と言っていつものように明るい笑顔をこちらに向けてくれる一十木君。恥ずかしながらも何とか言葉を返すことにする。
「みょうじなまえ、です…」
「そっか。よろしくね!」
「う、うん」
嬉しい。好きな人と話せることって、こんなに嬉しいことなんだ。…でもそれと同じくらい恥ずかしくて緊張して、胸がすごいドキドキする。
「みょうじっていつも昼休みにここで絵描いてるよね?」
「うん。描くの、好きだから…」
「へーそうなんだ!………そのスケッチブック、見せてもらえないかな?」
「え?」
唐突なお願いに動揺してしまう。それでも手を合わせてお願い!と言ってくる一十木君を見ると断るに断れなくて、抱えていたスケッチブックを彼に差し出した。
ありがとう!とこれまた眩しい笑顔を向けられると恥ずかしくて俯いてしまう。
「わぁー!すっげー上手じゃん!!」
「そ、そんなことないよ」
私が普段描いているのは風景画ばかり。学園の中庭や教室の窓から見える空の景色。……でも一枚だけ、風景じゃない物がある。
一枚一枚捲りながらスケッチを見ていた一十木君の手が止まる。
「これって……………俺?」
「…………うん」
最後の一枚
私が今描いている作品…それは一十木君の笑顔。白い歯を見せて笑うその表情は、私が一番好きな一十木だから。
「えと、あの…………私、一十木君の笑顔が大好きで!だから、その…っ」
どどどどどうしよう
大好きとか言っちゃったあああ。恥ずかしくて一十木君の顔、見れないよ…
「…………」
「………一十木君?」
何も話さない一十木君を不思議に思い恐る恐る顔を上げて見てみると、少しだけ頬の赤い彼の顔がある。
「………俺も!」
「!」
「俺もみょうじのこと、大好きなんだ!!」
「……え?」
一十木君が………私のことを……………好き?
言われたことを頭で理解するまでに時間がかかった。でも言葉の意味がわかると途端にびっくりして、嬉しくて…………頬に熱が集まるのを感じた。
「四月から…みょうじが昼休みにここで絵を描いてるの、ずっと気付いてた。でも君、目が合うとすぐに反らすからてっきり俺のこと嫌いだと思ってた」
「ち、違うよ!私も、四月からずっと一十木君のことが好きで………でも……恥ずかしくて…」
「あはは!君って恥ずかしがりやなんだ?」
返事をする代わりに小さく頷く。それを合図のように一十木君は………私の体をその腕で包み込んでくれた。
スケッチブックの向こう側
(あ…翔のこと忘れてた)
(…あっちで顔真っ赤にしてるよ?)
2012.02.05
‐‐‐‐‐‐
ながれ星の美柑様より
相互記念でいただきました。
ありがとうございました!
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