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8. CAF invoice [ 20/125 ]
ぼーっと手を伸ばすと、何かを掴んだ。温かいからそのまま布団に引き込む。
温かい。眠たい。
抱き締めながら、ぼんやり思うのは、小さな頃、しがみついていた自分より小さな手。
――壊さなくても。
どこにもいかないよ。
だから、さ。
悲しそうな目。
悲しそうな手。
悲しそうな、声。
力。
叫び。
どうしてみんな、俺を信じないのだろう。
殴ったり、叩いたって、好きになるわけでも嫌いになるわけでもないというのに。
ただ単に痛い、って感覚がある、それだけなのに。
暗闇のなかに誰かの声が聞こえる。
「好きなの、わかって!」
「そうなんだ。わかった」
淡々と返す。
「そういうことじゃない、あなたわかってないわ」
よくわからなくて黙っていたらまた、殴られる。理解するだけじゃ、だめなのか。
「あなたは、私を」
「俺は。好き、が、よくわからない」
そういうと、少女が、最低だと騒ぎ始めた。
何がだろうか。
わからないことがか。
世界は、ぐにゃりと歪んでいく。俺はただ怯えている。嫌いだと言われた方がまだマシだ。
あんな、あんなの――――
走り出した俺に、誰かが囁く。
「逃げ場なんてないわよ?」
―――――――――――――っ!
声にもならない叫びをあげそうになって、目を覚ますと、かいせが、そばで携帯電話を構っていた。なにか連絡があったらしい。
「柳時さんとこ行ってくる」
「俺も行く」
残されたくなくて思わず服の裾を掴むと、目元に口付けされた。
「……?」
「泣いてたな」
「そうかもしれない」
「心配事?」
縛られるのは、嫌だ。
相手は、もう俺の目を見ていなくて、あれが怖い。
かいせも、そうなるのだろうか。
「いや、昔から変質者に好かれるなぁって」
「おちょくってる?」
「もっと」
優しく触れられながら、ぼんやりと考える。
もしかしたら、彼も今。
「寂、しい?」
答えは無い。いつもより過激に求めてくるだけだ。よしよしと撫でてみる。寝癖があまりないのに腹が立ち、ぐしゃぐしゃと掻き回す。
「こら。やめてください」
さすがに止められる。
結構楽しかったので、拗ねてしまう。
ふいっと無視して出掛ける支度を始めた。
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きろくする